雨天 ページ5
チリンチリン
寝静まった屋敷内。
甲高い鈴の音が徘徊する。
水木「やめてくれ……殺してくれ…」
ポツポツと雨が降るころ、眠りにつく水木は悪夢にうなされていた。
あの地獄のような戦場。
昨日「帰還したら…」と話した死んだ仲間。
彼の脳裏には死に顔が焼き付いている。
水木「すまない、すまない……Aっ」
『はい、何ですか?』
水木「はっ!はぁはぁ……お前、何故部屋にっ」
水木の部屋の前を通った時、酷くうなされた声が漏れ聞こえて何度もすまないと謝っていた。
気になって悪夢から覚ましてあげたのに、起きたら警戒心むき出しの目をされた。
なんだコイツ…
水木「それに、お籠りは?」
『俺は龍賀の人間じゃないので、お籠りの夜は厄祓いで屋敷中を見張るんです。』
心なしか投げやりな態度になってしまった。
どうにもこの人の前では、良い子になれない。
なんで?
水木「それって寝てないってことじゃないか。」
『まあ……それより顔色が悪いですよ。外の空気を吸っては?もう夜は明けてますから部屋を出ても大丈夫です。』
水木「いや、大丈夫だ。」
水木はそういうと浴衣を脱いでスーツに着替え始めた。
水木「そうだ、Aくん…」
『Aでいいですよ、畏まる必要はありません。』
水木「ではA、この香り袋はお前が作ったのか?」
『はい、どこにも売ってない一級品です。』
水木「……。」
冗談で言ったのに……
水木はなんだか不思議な表情をしながら俯いてしまった。
だからなんで?
水木「なぁ、お前…」
「きゃーー!誰かー!!ごっ、ご当主様がお社で…」
不思議な顔で黙ってるかと思えば、水木は俺に改まった顔で何か言おうとした。
でもその言葉は、使用人の震えた叫び声でかき消されてしまった。
水木「なんだ?」
『はぁ、これだから……』
水木「?」
『気にすることはありません。さぁ、朝食を持ってきます。今日のだし巻き卵は俺が作りました。』
水木「いや、俺は騒ぎの方へ行かなくては。」
『……』
乙米「Aっ、Aどこに居るの!A!!」
水木にはこの村の面倒に巻き込まれてほしくない。
引き留めていると、怒りと不安を孕んだ声で乙米がらしくなく騒いでいる。
『では……行きましょうか。』
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