花梅 ページ4
時麿「一族のものはお籠りを始めよ。」
さっきの出来事が嘘だったかのように、時麿は途端にしゃんとした。
『悪いことは言いません。沙代姉と時弥を連れて村を去ってくれませんか?』
水木「何故そんなことを……」
『ここは生き地獄です。』
きっと今の俺の顔は死人のようだろう。
沙代姉がさっきから水木に向けている視線は、好意だ。
時弥も珍しい都会人に懐いている。
一族の因果を背負わせられる謂れは二人にはない。
俺は
だからどうにか連れ出してもらわなければならない。
水木は見ず知らずの人間だ。
でも何故か、この人には本音が言えた。
こんな感覚は久しぶりだ……
『助けてやってください。』
水木「勿論、僕は克典社長の味方です。」
乙米「A!何をしているの?」
後ろから焦燥感を滲ませる乙米が催促する。
よそ者である水木には邪険な視線を送った。
『それでは失礼します。今夜は部屋を出ない方がいいですよ、寝付きが悪いようならコレを。』
俺は一礼して、別れ際に香り袋を渡した。
踵を返して乙米の方へ向かう。
乙米「今度は役に立って見せなさい。コレも一族、"家族"を守るためなのですよ。」
『善処します。』
乙米の険しい表情と裏腹に、俺の心と裏腹に、俺は笑みをこぼした。
あぁ……なんて恨めしくて、苦しくて、痛い人だ。
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