照魔鏡 ページ16
軟い風が湖水を撫でている。
小舟は一定の速さで禁域の入り口に到着した。
灯ひとつないのに、Aは戸惑うことすらせず、一歩、また一歩と小舟を降りて鳥居へ向かう。
ちょうど鳥居をくぐるころ、衣囊から長田の札がスルリと舞い上がった。
すると、札からは火花が散って跡形もなく燃え尽きる。
【禁域の妖が惑わすその先に、私はあの子を置いて来た。】
【得物の柄からでも、あの子の脈が感じ取れた。】
【幾年経ってもあの鼓動が手から離れない。】
【やってはならなかった禁術��鬼降ろし��。】
11年前の日記を開くと、そこにはそう記されていた。
涙の跡のようなものが残って、文字が滲んでいた。
『通してくれない？アナタ達が待っていたものを取り返しに行きたい。』
禁域の奥へ進むと、生物とはいえない生き物の殺気が俺に向けて、一点に集中した。
怨み、呪い、怒り、苦しんでいる＿＿＿＿妖怪。
妖怪たちは、俺の声かけにすぐに応じてくれた。
立ち塞がる妖怪は道を開き、険しい道には階段がまるで生き物のように形成された。
この先にいるのか、11年前の
月光すら遮る森の中でも、不思議と足元がよく見えた。
明るいところのように階段を登り、登り切ったその先には小さな祠が建っていた。
妖怪たちが見ている。
祠に近づく俺をジッと見ている。
11年前の養子は、鬼降ろしという儀式の供物にされた。
禁域の奥にある洞穴に、瀕死の人間をできるだけ死なせないように閉じ込める。
三日三晩念を唱え、祠の中にある盃に赤い血のような酒が湧いたら儀式が成功した証だそう。
供物の怨念を対価にその地の安寧を鬼に守ってもらう。
恐ろしい話だ。
これじゃあ、どっちが化け物かわからないな。
俺は祠の戸をそっと開いた。
っ……
『あぁ……ここに居たんだ。』
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