人定 ページ15
一体何を怖がっているのか分からない。
今まで起きたことは、全部因果応報だというのに。
渡された札を茫然と見つめながら、そんなことを考えていた。
日はもう暮れて、中庭にはぼんやりと提灯の灯りだけが灯る。
沙代「Aくん？こんな暗いところで何をしているの？」
『沙代姉……何でもないよ。』
俺は咄嗟に札を隠した。
そして取り繕う笑みを浮かべる。
『それより、沙代姉こそどうしたの？ここにはあまり来ないのに……』
沙代「時ちゃんの容態があまり良くなくて……朝から目を覚まさないの。一体どうして……っ、Aくん？」
俯きながら話す沙代。
沙代の口から出る言葉の一つ一つを聞くたび、二人で過ごした記憶が蘇る。
俺は踵を返して屋敷の門の敷居をまたいだ。
手に持っていた傘を開いて、そっと振り返る。
『沙代姉は、東京に行きたい？』
切実に飾り気もなく俺は聞いた。
沙代「……っ、うん。」
『そっか……その気持ち、絶対に捨てないでね。』
俺は屋敷を離れて石段を降りた。
コオロギの声が、俺の足音を掻き消す。
そうだ……
湖岸に着いて、一隻の舟を足で湖に押し込む。
傘を閉じて舟に乗った。
みんなを、この生き地獄から抜け出させないと……
たとえみんなが俺のことを忘れても……
その時、水面が大きく揺らめいた。
波打つ湖水は、Aの乗った舟を押し出して＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿禁域へ
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