猛暑 ページ1
この村は腐ってる。
死臭なんて可愛いものだ、
この村の人間は生きながら死んでいる。
屍が笑って踊っている。
無駄に広い一室。
ここは俺を大切に閉じ込めるための檻だ。
襖の開く音がすると、そこには沙代姉がいた。
黒紋付を着た沙代姉は、浮かない顔つきだった。
沙代「Aくん、お母様がそろそろ出てきなさいって。」
『俺は出ないよ。乙米さんには、時貞殿が死んだ時その場で高笑いしていた俺が出るのは申し訳ない、って言っておいてくれない?』
沙代「また地下の座敷牢に入れられてしまうわよ。」
窓の外を眺める俺に、沙代は近づいてそっと頭を撫でた。
『もう子供じゃない……』
沙代「ふふっ、もう泣かない?」
ぐずった子供をあやすように撫でる沙代の手を、払いのけることはできなかった。
沙代「そうだ、東京の方が来ているのよ。」
『東京?』
沙代「Aくんも昔は東京にいたんでしょ?ウチに用があるみたいだから、会ってみたら?それのついでに、お母様のところに寄ってあげればいいの、どう?」
沙代姉は俺の扱いが上手かった。
何より、
俺が乙米に折檻されるたび、こっそりおにぎりを差し入れてくれた。
『それじゃあ沙代姉も一緒に行こう。前に、東京に行ってみたいって言ってたからさ。』
沙代「うん。」
俺じゃあ沙代姉に東京の話は聞かせてあげられない。
この家に養子として迎えられるより前の記憶が、俺にはないから。
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