六章 ページ6
『夏』はいつも不機嫌そうな顔をしていた。
不機嫌、とはちょっと違うかもしれない。その儚げに輝く瞳は常に暗い色を宿していたし、骨まで見えてしまいそうなくらい真っ白な肌は、小さな傷跡がたくさんあった。
『夏』が自分の家庭事情について語った事はない。
夏実は、母親を亡くした孤児だと聞いている。けれど、それも本当かは判らない。
もしかしたら。
今、『夏』の家庭事情を訊いたら、過去の事だからと笑って話してくれるのかもしれない。それとも、瑠璃色の瞳を暗い光に染めて、拒絶してくるかもしれない。
僕は、臆病だった。
今の関係を壊したくないからって、プライベートな部分には土足で踏み込まない。
本当は知っていた。
もう、とっくの昔に、引き返せなくなっている事を。
『夏』と出逢った瞬間、この娘は特別だと判った。きっと、僕の中で、大きな神木の様な存在になるとー。
数歩前を行く夏実に、小声で呼びかけてみる。
夏実、と。
絶対に聞こえないと思っていたのに、夏実は瑠璃色の瞳をキラキラと輝かせながら振り返る。
『夏』と変わらない、愛想のいい形の唇を笑ませて、
『夏』とは違う、鳶色の髪をなびかせて、
何ですか?と問いかけてきた。
僕の口は正直だった。
正直に、動いていた。
ついに土足で、踏み込んでしまった。
「夏実。『夏』と、それからー君の過去について、教えて」
夏実の明るかった瞳が、一瞬にして紺色に染まる。
けれども僕は逃げなかった。
もう、後には引けない。
82人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たろ。(プロフ) - 最高 (2022年4月16日 13時) (レス) @page16 id: ba071d904f (このIDを非表示/違反報告)
茉里 - ありがとうございます!続編もどうぞよろしくお願いします!できるだけ早く更新しようと思っているので……… (2019年6月5日 6時) (レス) id: 0903b0c425 (このIDを非表示/違反報告)
カゲロウ(白ヰ迷ヰ戌)(プロフ) - 続編おめでとう! (2019年6月5日 6時) (レス) id: 26ee7c4c14 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:茉里 | 作成日時:2019年6月4日 18時