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ベリアンさんの言葉に何かを察したのか、ルカス先生もそれ以上は何も言わなかった。
ふむ、と頷くと、ルカス先生はベリアンさんと目配せをして、ベリアンさんは無言で頷き返した。
どうやら執事たちは視線だけで意思疎通を図れるようだ。
ルカス先生は私の前に跪くと、「お手を失礼します」と断り、私の手を取った。
「ところで主様。お帰りはいつもこんなに遅いのですか?」
『……すみません。質問に質問を返すのは申し訳ないのですが、今は何時ですか……?』
「謝らなくてよろしいんですよ。主様がこちらの世界に来られたのが2時頃でございます。申し訳ございませんが、30分だけ仮眠を取っていただいてから起きていただいたので、現在は2時半過ぎとなります」
奇しくも草木も眠る丑三つ時。
悪魔の屋敷に訪れるにはちょうど良い時間だ。
会社を出たのは結局1時前くらいだったから、猫ちゃんに会うまで1時間くらい街をさまよっていたのだろうか。
『いつもはもう少し早いのですが……今日はトラブルが起きてしまったので、会社を出るのが遅くなってしまったんです』
「そうでございましたか……。出会ったばかりで大変申し訳ございませんが、主様。お食事はしっかり召し上がられていますか?」
心配そうな表情を浮かべて、ルカス先生は真剣な目で私をまっすぐ見つめる。
きっと、私のボロボロな外見に、手に取った腕の細さからも答えは分かっているだろうに。
ゆっくりとルカス先生の手を離して、私は思わず視線を外してしまう。
『……いいえ、この外見からご推察のとおり、まともな食事はここ1,2年は取っていません』
「そうでしたか……。普段はどのようなものを?」
『……栄養補助食品、と言って伝わりますかね……? 1日分の栄養素を取れるゼリーとかクッキーバー、それにサプリメントを仕事の合間に流し込む、といった感じでして……。本当はちゃんとご飯を食べたほうが良いことは分かっているのですが……。自炊をする気力もなく、出来合いのものを買う時間もなく……あっ、値段を気にしなければ買う場所はあったのですが……気がついたら食事の優先順位が下がってしまっていて……ごめんなさい、普通……ではないですよね』
そんなに心配することではないんですよ、なんて伝えたくて言葉を重ねたけれど、どんどんと険しくなっていく二人の表情に、私は間違った選択をしていたことを突きつけられる。
情けなくなって結局声も消え、俯いているしかない私。
そこに、
「主様、夜食を持ってきたぜ!」
タイミングが良いのか悪いのか。
新たな執事が夜食を持って、やってきた。
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悠莉(プロフ) - 雪女さん» 雪女さん、コメントありがとうございます!のんびり更新ですがよろしくお願いします…! (5月3日 22時) (レス) id: 5c790ea34a (このIDを非表示/違反報告)
雪女 - 更新楽しみにしてます🙂 (5月3日 9時) (レス) id: 6c1d2855e5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:悠莉 | 作成日時:2024年3月14日 22時