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ナックさんは肩をすくめて、私に優しく笑った。
「昨日も眠れず、夜の見回りをしていましたら、すでに起きていらっしゃった主様とつい先ほどお会いしましたね」
一方のフルーレさんは頬を赤く染めてそっぽを向いて答える。
「……おっ、俺はいいイメージが思い浮かんで衣装作りに夢中になっていたら、こんな時間になってました……そろそろ寝るつもりですが」
『えっ……と、フルーレさんは大丈夫そうですが、ナックさんもこれから眠る予定はある、ということでよろしいですか?』
ムーちゃんを除いた他の執事たちから無言の笑みが返ってくる。
ナックさんの顔を見上げると、それはもう完璧で鉄壁の笑みだった。
これ以上は聞かないでくれ、といったような感情がビシビシと伝わってくる。
『……私が言えた義理ではないのですが、急ぎの仕事がないのなら眠りましょう? 無理しても良いことなんてありませんよ』
「大丈夫です、主様。私は不眠ですので、短時間の睡眠で問題ありません」
『なにも大丈夫ではないような……? いつも眠れないのですか?』
「えぇ、まぁ……。ですが、ご心配には及びませんよ、主様。私は3時間も眠れば十分ですので……」
『えっ!? それは本当ですか……? ですが、眠いときは無理せず眠ってくださいね?』
「ありがとうございます、主様。主様は執事にも気を遣ってくださるなんて、本当にお優しい素晴らしい御方ですね」
『そんな……私なんて、なにも……普通ですよ、普通で、優しいわけでは……』
特別なことなんてしていないのに、そう何度も褒められると困ってしまう。
視線を揺らしていると、パチリ、とフルーレさんと目が合った。
そして思い出す。
『あっ、ナックさん、先ほどおっしゃっていた衣装係のフルーレさんって⸺』
「えぇ、お会いできて良かったですね、主様」
ナックさんから離れて、入り口近くにいたフルーレさんに近づき、そっとささやく私。
『……ごめんなさい、フルーレさん。眠る前に一つよろしいですか? あの、私の服ってすでに準備されていますか? 着られればなんでも良いのですが……』
「主様のお召しになる衣装がなんでもいいわけないですよ!」
『す、すみません……今は人前に出ても、は……恥ずかしくない服であれば本当になんでも良いのですが……ずっと寝間着のままでいるのは少し……』
いえ、かなり嫌です、恥ずかしいです。なんて言葉は飲み込む。
言葉をにごしてへらへらと笑っていれば、フルーレさんに手を取られた。
「主様のお召し物が準備されていなかったので、ナックさんの服を借りていらしたんですね。申し訳ございません」
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悠莉(プロフ) - 雪女さん» 雪女さん、コメントありがとうございます!のんびり更新ですがよろしくお願いします…! (5月3日 22時) (レス) id: 5c790ea34a (このIDを非表示/違反報告)
雪女 - 更新楽しみにしてます🙂 (5月3日 9時) (レス) id: 6c1d2855e5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:悠莉 | 作成日時:2024年3月14日 22時