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ただ、問題はどうやって世界を行き来しているのか分からないこと。
おそらく、左手の中指にはめた指輪が関係しているとは思うのだけれど、確証はない。
『ちなみにナックさん。私がこことは違う世界からやってきたってことはご存知ですか?』
「えぇ、今回の主様は初めて別の世界からいらっしゃるとベリアンさんから伺っていますから」
『そうでしたか……』
それならばベリアンさんに尋ねれば、世界を行き来する方法が分かるのだろう。
でも、夜遅くまで起きていたベリアンさんをわざわざ起こすのは忍びない。
さて、どうしたものかとうんうんうなっていれば、ナックさんから手を差し伸べられた。
「主様、もしお時間がございましたら、屋敷を案内いたしましょうか?」
『よろしいのですか? それでは⸺』
ナックさんの手を取り、お願いいたします、と言いかけて、ふと自分の格好を思い出す。
すかさずナックさんから手を引っ込めたけれど、不自然な私の行動に、当然ナックさんは不思議そうに首を傾げた。
「いかがいたしましたか、主様?」
『あ、の……私、ネグリジェのままで……着替えたほうが、良いのでは、と……』
「あぁ、気が利かず大変申し訳ございません。ですが、私も衣装係ではないので主様のお召し物の場所が分かりませんし……衣装係のフルーレくんに確認して参りますので⸺」
ナックさんの言葉に、慌てて否定する。
誰であろうと朝早い時間に起こすなんて申し訳なさすぎる。
『い、いえっ! そこまでではないので大丈夫です! なければないでこのままで問題ありま⸺クチュンッ! ……す、すみません!』
「そうですか? では、せめてこちらで我慢していただけますか?」
ナックさんはそれまで自分が着ていた上着を脱ぎ、私の肩にかけた。
裾も長く、ネグリジェも隠せる。しかも、温かい。
いそいそと手を通してしまったけれど、目の前でくしゃみをしてしまったせいもあるだろうから申し訳ない。
まるで無理やり奪ってしまったみたいだ。
『ナックさん、寒くないですか?』
「私は大丈夫です。それよりもかよわい主様が風邪を引いたり、寒さに凍えたりするほうが問題です!」
『……分かりました。ありがたくお借りします、ナックさん。ありがとうございます』
「いえいえ、お礼なんていりませんよ。執事として当たり前のことをしたまでです。それでは行きましょうか、主様」
また手を差し伸べてくれたナックさんにそっと手を重ねて、ナックさんに導かれるまま静かな屋敷を歩き始めた。
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悠莉(プロフ) - 雪女さん» 雪女さん、コメントありがとうございます!のんびり更新ですがよろしくお願いします…! (5月3日 22時) (レス) id: 5c790ea34a (このIDを非表示/違反報告)
雪女 - 更新楽しみにしてます🙂 (5月3日 9時) (レス) id: 6c1d2855e5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:悠莉 | 作成日時:2024年3月14日 22時