□第１章 執事との出会い(１) ページ1
午前0時を過ぎて、すでに日付も変わった頃。
私は、今日もまだ人が残っている会社をあとにしようと荷物をまとめ始める。
今週末までと命じられた仕事は終わる目処が立っていないけれど、今から駅に向かえばギリギリ終電に間に合う時間だ。
いつもこの会社で一番早く家に帰るのは、私である。
今日も会社に泊まるのであろう隣の席の同期に小声で謝るも、髪もボサボサのままくくり、クマもひどく黒くうつろな瞳でパソコンを見つめる彼女から、返事は返ってこない。
いや、返せるほどの気力もないだけだ。
私も彼女と同じような状態だから、十分に分かる。
きっと、わざわざ家に帰る私のほうがこの会社ではおかしいのだ。
「A！ 仕事は終わったのかぁ！？」
『すみません。お先に失礼いたします』
「A！！！」
係長は叫ぶだけで、あとを追ってこないことは知っている。
けれども、今日は虫の居所でも悪かったのだろう。
部屋から出ようとした私の右腕を、係長が掴んだ。
『……すみません、離していただけませんか？』
「駄目だ！ おまえの
『やっ、やめてください』
騒ぐ私たちを、
係長はずるずると私を引きずって、無理やり席に座らせた。
「今週は帰るなっ！」
『なぜでしょうか……』
「仕事が終わってないからだろうがぁ！」
『……はい』
係長との問答で時間も押してしまい、今からでは終電には間に合わない。
思わず吐きそうになったため息を慌てて飲み込む。
まだ係長が、私が逃げ出さないかと背後で睨みつけている気配があった。
嫌だ嫌だと心は叫ぶものの、ついさっき電源を落としたパソコンにゆっくりと手を伸ばす。
「早くしろっ！」
『……はい』
係長がしびれを切らすほうが早かったのか、私の手を通り越して係長が私のパソコンを立ち上げた。
ログイン画面が表示され、ぼんやりと液晶に反射していた疲れきった私の顔が消える。
⸺なんのために、私は生きているのでしょうか？
自分に問いかけても、その答えを私は見つけられなくなっていた。
係長もいなくなり、ぼうっと何も考えられなくなった私は、このままでは作業ができないと荷物は持たずに部屋をそっと出る。
この仕事場は、どうせ係長以外は他人に気を配る余裕もないのだ。
逃げる場所なんてないのに、会社からは離れたくてあてもなく街をさまよい始める。
『……あれ、猫ちゃん？』
そんなとき。
どれくらい歩いていたのか分からないけれど、私の目の前を黒猫が横切った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 18人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
悠莉(プロフ) - 雪女さん» 雪女さん、コメントありがとうございます！のんびり更新ですがよろしくお願いします…！ (5月3日 22時) (
レス) id: 5c790ea34a (このIDを非表示/違反報告)
雪女 - 更新楽しみにしてます🙂 (5月3日 9時) (レス) id: 6c1d2855e5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：悠莉 | 作成日時：2024年3月14日 22時
