ミッドナイト・トレンディ【黄】 (ページ8)

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あれから一頻り泣きじゃくって、適当に見つけたコンビニでコーヒーを買って車を走らせた。
いつも甘いカフェオレやいちごミルクを買うけれど、今日はブラックの缶コーヒー。
眠気覚ましだ、なんて自分に言い訳して手に取った銘柄は、いつもAが飲んでいるそれだった。

どこまでも未練がましい自分に失笑する。

｢……苦ぇ｣

慣れない苦さを喉へ流しながら、また夜の街に車を走らせた。

飲み終えたコーヒーの缶を握りながら、フロントガラスの向こうを眺める。
ちゃんと帰りなね、のメッセージには、『おやすみ』の一言だけ返信した。

瞼が重いのは、眠気のせいなんかじゃなくて、たぶん泣き腫らした浮腫のせい。

『…JO○○-FM、△△放送局です…』

つけっぱなしだったラジオから、放送終了を知らせるジャンクションが流れてハッとした。
明日も仕事だ。もう帰らないと。

対岸に見える光は灯台と街の灯りが少し。
その奥の空はうすらと白み始めていて、軽く窓を開けると波の音と一緒に入ってくる磯の匂い。

あぁ、そういえば、ここはAと初めてデートした時に来た海だっけ。
この数年間、俺の記憶は仕事とAのことだけでいっぱいいっぱいで、ふとした瞬間にそれを痛感する。
帰らなきゃ、とぽそり呟いた。
そして何かを払うようにふるふると首を振って、俺は車のエンジンをかけた。

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