■ ページ7
.
Aを送り届けて自身も帰宅、なんてことは今までに何度だってあったのに、今日のそれはどんよりとした重めの空気に包まれていた。
それもそのはず、ついさっき送り届けたばかりの、世界で1番大切で大好きな人の口から、全く聞きたくなかった言葉を聞いてしまったから。
『別れよっか』
『疲れちゃった』
思い出したくない言葉なのに、頭の中でずっとリフレインする。
数え切れないくらい通ったこの道は、カーナビなんてとうの昔に要らなくて。
染み付いた記憶を頼りに車を走らせるけど、まったく気分は晴れなくて。
フロントガラスにぽつぽつ水滴が当たる。
そういや夜中雨降るって阿部が言ってたな、と昼間の記憶を思い出した。
空も泣いてんじゃん、なんて、ガラにもないことを独りごちた。
首都高速の渋滞はまだ解消されていなくて、インターをくぐるのをやめた。
明日も仕事だから、こんな深夜にドライブをしてる暇はないはずだけど、アテもなく都内を走る。
数分走っていつもと違う道に入り込んだ頃、寝静まった街を横目に目頭がじわりと熱くなる。
じわじわと溢れるそれは俺の視界をだんだんと侵食して。
そんな時、助手席に放り投げた携帯の画面が光った。
『送ってくれてありがとう。ちゃんと家帰りなね。仕事頑張って』
信号待ちの間にちらりとそれを見る。
やけにそのメッセージが心に染みて。
良くも悪くも俺の心を見透かしてしまうAのことだ、たぶん俺が未だ家に帰れずにうだうだ車を走らせていることなんて分かってて、この文面にしているに違いない。
また視界が滲む。
耐えきれずハザードを炊いて、車を路肩に停めた。
お互いの心をなんとなく分かってあげられるほど長い時間一緒に居たのに、そういう関係を築いてきたはずなのに。
疲れた、のたった一言でそれが全部崩れ落ちてしまいそうなところにいる事実に耐えられなくて、ただ服の袖を濡らすしか出来ない自分が悔しかった。
.
707人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
友里花(プロフ) - 続き楽しみに待ってます!!更新待ってます!! (6月6日 8時) (レス) @page11 id: ce3588ab80 (このIDを非表示/違反報告)
さっちい(プロフ) - フラグ立ったままになってます! (2023年2月6日 11時) (レス) id: eabb928051 (このIDを非表示/違反報告)
金成(プロフ) - お/り/ふ/らたってますよ (2023年2月5日 10時) (レス) id: 6328f81305 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:M | 作成日時:2023年2月3日 9時