☆望むなら／折笠千斗 ページ1
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初めて出会ったときの冷たい印象とは裏腹に、あなたはいつも優しい爪痕を残していく。
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夜空を揺蕩う星を眺めながら、月明かりに溺れて眠る日が増えたと思う。それが全て、彼のせいだとも。決して欲張りになった私のせいではない、そう言い聞かせないと今にも闇の底へ沈んでしまいそうになるから。
それなりに長い付き合いにはなるが、いまいち彼の存在が掴めない。所在なさげというか、まるでのらりくらりと生きる野良猫のように、あの人はすぐどこかへ行ってしまう。
けれども、あの懐からするりと抜け出す感覚も、考えが少しも読めない瞳も、癖になっていることをほんの少しも否めないのは、すでに絆されている証拠で。
やはり私は彼を求めてしまうのだろう。
そして、戻ってくれば迷わず腕の中へ引き寄せるのだ。
どこにも行かないでなんて言わない。
せめて、また帰ってきて。
それだけで、私はきっと退屈な日々をまた生きていける。
「今日、家に泊めてくれる？」
ライブが終わっていつものようにライブハウスから抜け出すと、決まって駐車場から呼ぶ声がする。氷のように涼しげで、でも今は少しだけ息が乱れた声。今日『も』と言わないのが彼らしくて、きゅっと締め付けられる胸に手を当てながら私はいいよ、とだけ答えた。
帰り道の途中でいつの間にか口ずさむのは彼が相方と一緒に作った曲で、繊細で大胆なメロディがさっきまでのライブを彷彿とさせる。そういえばしばらく新曲を聞いてないな、なんて考えているともう家の目の前にいた。
彼らの曲、彼の歌声を聞いていると、時間の感覚をつい忘れてしまいそうになる。
それはとても、幸せなことだと思う。
バイトもレポートも終わらせて珍しく落ち着いていたため、スマホを取り出してしばらくSNSから今日のライブのサーチをかけた。
どれも似たようなものばかり。好評価と賞賛、それからたびたびまじる皮肉を流し読みしながら、ベッドで寝返りを打った瞬間にインターホンの音が部屋に鳴り響いた。
玄関のドアの覗き窓の向こう側には、レンズでひん曲がった見慣れた姿。
だぼだぼのコートに身を包んだ、銀髪の美しい彼。
もちろん、雪男なんかではない。
どちらかといえば雪女じゃない、と言った時、彼が密かに白目を向いて笑ってたことを思い出しながら、私はドアノブをひねった。
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作者名：深然 | 作成日時：2019年3月18日 1時
