それが優しさ ページ9
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『もちろん、東都ビルの北口にある24時間営業のコーヒースタンドですよね？』
「当然だ。僕はアメリカンコーヒー、ましましのブラックで」
『私はソイラテ。デカフェに変更で。本当はクリームたっぷりモカシロップ変更のスムージーでも飲みたいところですけど』
「私は深煎りのドリップコーヒーで」
『恨みっこなしですよ』
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さいしょはぐー。じゃんけん、
ぽん。
ちょき。ちょき。ぱー。
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降谷から野口さん2枚をもらった風見は、恐縮ですと腰を低くしてコートを羽織ってエレベーターホールへと向かった。
その様子を、久しぶりに手を止め生ぬるい視線で見送る。
『彼は気付いてないんでしょうか。じゃんけんをするとき、必ず最初にパーを出していることに』
「ヒナ、黙っていることも時には優しさだ」
『じゃんけんする間に書類の半分は埋められましたよ』
「買いに行かなければ、書類10枚は余裕だ」
ふふ、と柔らかく笑った新堂。降谷を始め、風見を除く周囲にいる人間は、新堂のことを潜入中の名であるヒナと呼んだ。新堂はそれが、結構お気に入りだったりする。
それに、定時が過ぎ残された3人で仕事の話をしたり、全く関係のない話をしたりしながら、残業をするのも嫌いじゃなかったりもする。
新堂はその優しい表情のまま、髪止めをはずして髪を下ろした。ゆるく留めているとはいえ、ずっとまとめていると頭が疲れてくる。ばさ、と髪を揺らして再びボールペンを手に取る。
しかしそこで、降谷の手が止まった。
「ヒナ、香水つけてるか」
『いえ？』
その返答に、最初は何かを考え込むようにしていた降谷であったが、記憶のなかで糸と糸が結び付いたのかがばっと勢いよく顔をあげた。
その様子に驚いた新堂の
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甘いバニラの香りの中に隠された苦み。
新堂はいつも、シトラスの香りがした。
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前述の香りは、嫌と言うほど嗅いだ。フロア内は禁煙だといつも口を酸っぱくして言うのに、あの隈男はそれがやめられない。話すことはもちろん、降谷はあの男と同じ空間にいることもいやだったのだ。だから、気づくのが一瞬遅れた。
ほどいた髪からふんわりと鼻を掠めた匂いは、否が応でも
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作者名：ハル | 作成日時：2021年9月16日 19時
