ふたりの愛情論(仮)【赤井秀一】 (ページ31)

今日:3 hit、昨日:5 hit、合計:21,462 hit

消えない事実ページ31

.

街ですれ違う男女は、必ずしもカップルではないと言う。

端から見ればふたりはカップルで、
ふたりからしてみれば互いの関係に名前はない。

.

高級ベッドのホテルに身を沈めた新堂は、赤井の髪からポタポタと溢れ落ちる滴を目で追っていた。
下だけ下着に身を包み、上裸に真っ白のタオルをかけた赤井は慣れた様子で煙草をくわえ火をつけた。

その様子を、新堂も当たり前のように見守る。

『もうすぐクリスマスですね』

「あとひと月はあるぞ」

『直ぐですよそんなの、』

「仕事柄、クリスマスにいい思い出はない」

ゆらり、ゆらり。
今度は、浮かんで漂う紫煙に目を向けた。

『どうせ仕事でしょうしねえ。浮き足立つ世間を感じず終わりそうです』

ふふ、と柔らかく微笑む新堂にそっと手を伸ばす。
風呂上がりの熱を帯びた指先が、髪を撫で梳かし、血色感のある頬に触れ、小さくできたえくぼへと落ち着く。

新堂はそっと赤井の手に掌を重ねる。

.

「少し、痩せたか。休んだ方がいい」

『赤井さんこそ、クマ酷いですよ』

「生まれつきだ」

『クマのある赤ん坊なんて居ないですよ』

灰皿に煙草を擦り付けた赤井は、すっかり乾いた髪をかきあげて、ベッドへと滑り込んだ。

軽く新堂を引き寄せ、両腕に閉じ込めて、頭を一定のペースでポンポンと寝かし付けるように叩く。

「あんまり頑張りすぎるな」

『‥‥仕事、好きなんです‥』

はからずとも気が抜けたのか、とろんとした眠気混じりの声になった新堂は瞬きを繰り返す。

「君も降谷くんも、どうも人の話を聞かない」

『わたし‥、服部さんに兎みたいだって言われました‥‥』

とうとう眠気に勝てず呂律がまわらなくなった様子に、赤井は優しく口角をあげる。

「確かに、似ているかもしれない」

『ほんと、ですか‥‥』

「昔、妹が飼いたがってると母親に聞いて調べたことがある」

新堂の目はほとんど閉じていたが、赤井は続けた。

「ジェイムズに何を聞いたか知らないが、今日は珍しく構ってほしいそぶりが分かりやすかったぞ。それに兎は、体調が悪くてもギリギリまでひとりで我慢するらしい」

スースーと寝息を立て始めた新堂の、前髪をそっと起こさないように撫でる。

「‥‥分かってるのか。後処理が終われば俺はアメリカに帰る。‥‥急いで片付けることなんてないだろう、」

「もう何も、失いたくないんだ」

ちゅ、とおでこにキスを落とした赤井はゆっくり目を閉じた。

.