警視庁の廊下 ページ5
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『だから風見が、はいありがとうございます、ってお得意の真面目な顔で言えばいいのよ』
「それはこちらの台詞だ。打診を受けた訳じゃない。お門違いだ」
警視庁の廊下。重苦しい鉛色の絨毯を踏みしめる音と軽く弾む音。女の声がしたかと思えば、それに被せるように男の声がする。
女は、右の男を見た。
男は、左の女を見た。
このままじゃ不毛な時間ばかりが過ぎる。互いが互いにそう思っていた。
□ □ □
公安警察が長年追い続けていた、組織がひとつ壊滅したのは3ヶ月と少し前のこと。世間にはまだ公表されていない。恐らくまだ先になることだろう。
FBIと共闘したのは異例中の異例のことで、潜入捜査及び公安警察が行った違法捜査の後処理含め、片付けるべき書類はまだエベレストほどある。
組織壊滅計画の船主であった服部警視は管理官に、そして彼らふたりにとって敬愛し、師と仰いでいた降谷警部は降谷警視へと昇進することが決まっていた。
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そこで起こった問題は、誰が降谷零がいた椅子に座るか、ということだ。
まだ他にやるべきことが積もりに積もって噴火を起こしそうだと言うのに、組織において絶対的な権限を持つお偉いさんと言うのは、まったく暢気なものだ。
下の者がコーヒーメーカーの安い泥のような珈琲で眠気を吹き飛ばすなか、秘書に車を走らせ、セイレーンマークの営業スマイルたっぷりの珈琲を口にできると言うのだから、当然と言えば当然だ。
廊下で青い炎を背負い合うふたり。主に言えば、このふたりが降谷の部下であった。
誰がどう言おうとそのうちの一人、風見裕也にその椅子は一度は決まったのだ。いや、決まりかけたのだ。
あくまで会議の噂話だが、公安警察のネットワークを舐めてもらっちゃ困る。時には猫でさえスパイにするのだ。人間同士の会話の内容を、一字一句間違えずに文字起こしするなど容易いこと。
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作者名：ハル | 作成日時：2021年9月16日 19時
