・ ページ35
.
「フルヤくん」
恰幅な指が、降谷の肩を叩いた。
季節はすっかり春。警察庁の近くの桜も、すっかり見頃を迎えていた。警察庁にも慣れないスーツに身を包んだ顔が、いくつか見受けられるようになった。
「桃原警視長」
「相変わらずの暗躍。こちらの耳にも届いているよ」
「恐縮です」
目尻の辺りは、似ているだろうか。厳格な顔だが、破顔したところは、娘にそっくりだ。いや、娘がこの父親にそっくりなのだ。
.
「正直意外だったよ。君は、有り難いことにうちの娘を信用してくれていたみたいだからね」
娘が協力者を外れたことは知っているだろうが、理由までは知らないのだろうか。
どこをどう切り取っても、いまいち理解のできない警視長の言葉に、降谷は少し顔を歪めた。
そのわずかな異変を察知した桃原は、低い声で喉を鳴らした。
「君なら引き留めると思っていた。娘は、昔から頑固なところがあってね、亡くなった妻との約束だからと断ろうとしなかった。私も少し、寂しいんだけどね‥これがあの子の決めた道だ」
「あの、彼女が協力者を辞めた件ですよね?亡くなった奥さまとの約束って、何のことでしょう」
.
桃原は、目を丸くした。聞いてないのか、と。
.
51人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ハル | 作成日時:2021年9月12日 0時