Another Round

今日:3 hit、昨日:6 hit、合計:17,671 hit

・ページ32

.

「馬鹿な奴等だな。こんな小生意気な娘一人、おだてたところで警視長は動く器じゃないのに」

いつも、父を脅し文句に使うようなAだけれど、本当にそんなことをしはしないこと、降谷はよく分かっていた。

『ふふっ、降谷さんのそういうとこ嫌いじゃないですよ』

「人を見る目があることだけは褒めてやろう」

ポン、と一度軽く彼女の頭に手を置いた降谷は、時間がない、と呟くと耳たぶにつけた印に触れた。

.

『ねえ、降谷さん』

「まだ何か言いたいことがあるのか」

『‥ピアス開けたらさ、世界変わるかな』

ぞくり。何故かその質問に、胸騒ぎがした。

「人がピアスを開ける度に世界が変わったら、今ごろ地球は滅亡してるな」

『ふは、そうだね。』

「いくぞ」

そう声をかけると、少しだけ体に力が入った。

.

『でもね、降谷さん。やっぱり私は、世界が変わる音だと思うなぁ』

.

ーパチン

.

「世界は変わったか？」

そっと耳から手を離した降谷は、テーブルに散らかしたままのゴミをビニール袋に集めた。
Aの右耳は、ほんのり赤かった。

『‥うん、変わった。変えたのは、降谷さんだけどね。ねえねえ、なんで右耳にだけ開けたか分かる？』

「…さあ」

『そっかぁ』

特に興味のない質問。冷たくあしらえば、彼女は儚く笑った。その瞬間、何故か花が散ったような空しい感覚を感じた。

.