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それから会話はなかったが、女は2杯目を飲み終わる頃、ふと視線を向けた。
先程差し出した灰皿には、吸い殻でこんもりとした山ができていた。その中のひとつだけに、フィルターに真っ赤なリップが艶かしくついていた。
あの男に並ぶヘビースモーカーがいるのかと、記憶をたどる女は鼻で笑った。
この様子を見る限りじゃ、酒を肴に煙草を吸っているらしい。しかも、バーボンのストレートだとか強い酒で。
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『酒好きのヘビースモーカー?タチ悪、』
気付いたら、そんな言葉が出ていた。レイヤーの入ったネイビーのロングヘアーを弄りながら、どこか自嘲するように笑った。
男は訝しげな表情を見せたが、女の失礼な台詞に機嫌を悪くしたようでは無かった。
「どこがだ?」
『ガソリンは煙草と酒、着飾るための外装は女と金、安っぽくて燃費の悪い外車みたいな男ね』
女の言葉に、男は煙を吐き出しながら眉を寄せた後、片方の口角を上げた。
「女と金は勝手に君が決めつけた」
『良いコートと靴履いてるくせに。それに、CHANELの香水の臭いぷんぷんしてる』
お返しと言わんばかりに言葉を重ねて、今度は女が眉を寄せた。
男は少し考えたのち、ぼそりと言葉を落とした。
「……ジョディか、」
『あーあ、外人彼女かよハイスペック』
呆れた、と女は力なく笑った。
あながち言ったことは、間違いないだろうと態度で示していた。
「鼻が利くな」
『いろんな意味でね、特技はこれだけ』
悪戯に笑う彼女は、もう男のことを見ていなかった。グラスに残る酒に視線を落とし、やはり自嘲するだけだった。
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作者名:ハル | 作成日時:2021年9月12日 0時