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1ヶ月ほどたった頃、その日がやって来た。
警察庁の会議室。架空の会議を作り上げてまで、この場所を押さえた。
ここに来るまで、ただでさえ制服姿と言うことだけで目立つのに、庁内を徘徊し回された降谷の気苦労ときたら、言わずもがなである。
良く分からないことばかりだったが、彼女が手に持っていたビニール袋を渡された。中にはピアッサーと消毒液が入っていた。
「どこに開けるんだ?」
『右耳の耳たぶ』
広い会議室の一角。背もたれのあるしっかりとした回転チェアに座ったAは、無邪気にその弾力を確かめていた。
その姿に、降谷は少し笑みをこぼして、ビニール袋から必要なものを取り出した。ピアッサーの箱を明け、丁寧に説明書を読み込む。
『そんなの読む人いるの?』
「ここにいる」
『確かに』
実際に彼女の耳を見ながら、説明書を読もうと考えた降谷は、傍らにしゃがみこんだ。
椅子に座る彼女を自然と見上げる形になり、とっさに椅子ごと体を引いたのはAだった。
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「なんだ」
『いや、近‥‥じゃなくて。公安のエースを跪かせてるなんて、張れたら抹殺されるんじゃないかと思って』
「今更だ。それ以上の失礼をお前は今までしてきてる」
黙ってろ、とAの座る椅子の肘掛けを掴んだ安室は一気に引き寄せた。
消毒をするため、彼女の長い髪を耳にかけ、触れたときようやく気付いた。彼女はすでに、耳にピアスの穴が開いていた。
どうやら降谷が開けるのは、ファーストピアスではないらしく、聞けば両耳に既に開いていると言うではないか。
ますます彼女の意図が分からないと思ったが、10近く歳の離れる女性の
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作者名:ハル | 作成日時:2021年9月12日 0時