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“ 別れてください。
返事はしないでください ”
高校2年生の夏から、大学4年の2月まで付き合った彼との終止符は、そんな言葉だった。
直接言われた訳でも、メッセージが送られてきた訳でもない。
彼が家に泊まった翌日、そんな置き手紙がテーブルの上に残されていた。
その日から、連絡は繋がらなくなった。
昔から、人間関係や愛には希薄なタイプだった。人見知りで、誰かと行動するのが苦手で、寂しがり屋だけど一人が好きで。家族にすら、大きな相談事はできなかった。
人は鏡。自然と、自分の周りに集まる人は少なかった。
最初こそ、その彼とも仲良くなれなかった。ただ同じクラスなだけ。きっかけがあるとすれば、同じく園芸委員だったということだけ。
気づけば一緒にいて。
気づけば好きだった。
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その男は、彼女の胸にぽっかりと穴を作った。家族の次に、無償で未経験な愛をくれた人。
彼は、こんなにも深く彼女の心に傷をつけたことは知らないだろう。いや、思いもしてないだろう。
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心にぽっかりと穴が空いた状態で出会った男。後に、プロポーズされる人である。
言うならば、性格は前の彼とは真反対。少し抜けていて、料理も車の運転も下手くそ。慣れた様子でエスコートなんて出来やしない。
でも、女が作る壁を一生懸命上ろうとしてくれる人。
「君の心が決まるまで、明日でも明後日でも、一年後でも十年後でも。僕は此処で待ってるから」
その人は、彼がくれなかった言葉を、プロポーズの言葉としてくれた。
女は、何も応えられなかった。
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別れてから7年。
プロポーズを受けてから二週間後。
Aは、見た目は全く変わらない元彼が、全く別の名前で喫茶店員兼探偵をしている姿に出会うことになる。
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作者名:ハル | 作成日時:2021年9月12日 0時