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お気に入りのパンプスに履き替えたAは、後輩から報告書を受けとり、風見の運転する車で警察庁へと向かっていた。
「珍しく機嫌がいいな」
『昨日、私より先に帰ったからぶん殴られるとでも思った?』
「絆創膏までは準備していた」
『あっは、杞憂で良かったじゃん』
ヘラヘラとするAに、風見はため息をこぼした。
警察庁の駐車場へと到着し、シートベルトを外しながら言葉を続ける。
「降谷さんの方が、朝から機嫌が悪かった」
『え、私のせい?』
車の扉を閉めながら、まさか昨日どさくさに紛れて、実は友達少ないくせにと、悪口を言ったのが張れていたのだろうかと顔を青くする。
「水城、忘れたのか?今日から本格的にFBIとの合同調査だ」
『ああ、そうだった。ええと、何だっけ、あの人』
額に手を当てて考え込みながら、昨日の床質には及ばない廊下を風見と並んで歩く。
エレベーターに乗り込んだところで、ああっ、とAは声をあげた。
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『降谷さんの因縁の相手、アカイシュウイチが来るから機嫌悪いんだ』
「それ、降谷さんの前で絶対言うなよ」
『どんな人なの?私会ったことないんだけど』
「降谷さんが公安のエースなら、あの人はFBIきっての切れ者だ」
なるほど、と頷く中。安っぽいベルが到着を知らせ、ヴィーンと鈍い音を立てて扉が開く。
エレベーターホールの先に、見慣れた公安部のフロアが広がる。
「あっ、赤井捜査官!またこんなところで煙草吸って、」
隣にいる風見が呆れを混じらせながら、焦ったようにエレベーターを降りる。
おかんか、と心でつっこみながら降りようと半歩踏み出したところで
考える間もなく足が止まった。
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ーガゴンッ
両肩が、エレベーターの扉に綺麗に挟まれる。
水城?と、見慣れた上司が幅広の背中越しに顔をのぞかせ自身の名字を呼ぶ。
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振り返った男。
昨日、何度もぶつかりあった翡翠の瞳と目が合う。
“すまない。先に謝っておく”
その言葉の意味が、ようやく理解できた気がした。
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作者名:ハル | 作成日時:2021年9月12日 0時