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「すみません、失礼しました」
「あ、いやいや、私邪魔なら帰るから言ってね?」
「むしろ俺たちがダンスの練習してたの邪魔しちゃったのに、すみません」
「なぁ、ところでさ、変なこと聞くんだけど、俺たちのこと知らない…よな…?」


そう彼女に問いかけると、キョトンとした顔で俺と壮真を見比べる。


「知らないも何も、今知り合ったよね…?」
「あ、いやそうじゃなくて」
「俺たちの顔とか名前に見覚えとか聞き覚えとかないかな〜ってことです」


笑いながら壮真が付け足す。


「え、実は有名人なの!?誰!?知らない!!」
「榛葉さんスポーツ見ません?野球とかサッカーとか」
「あー日本代表の試合なら!普段のやつはごめん全然見ない!」


清々しいほど勢いのいい、見ない宣言にだよな、と内心大きく頷く。


「なになに、スポーツ選手なの?」
「スワローズってご存知ないですか?東京ヤクルトスワローズ」


壮真がそう言いながらスマホを取り出す。


「あなんか聞いたことある気がする…何年か前に日本一になった?」
「そうですね、2年前に」
「俺たちそのチームなんだよ」


俺がそう告げると、彼女の顔がパァーっと明るくなる。


「え、すごい!プロ選手ってこと!?すごい!握手してください!!」
「そんなに驚くことかよ笑」
「いやだって普通に生きてたらプロ選手と話す機会なんてないよ!?私すごくない!?」


あからさまにテンションの高くなる彼女に、壮真とふたりで顔を見合わせる。


「いやぁ…びっくりこんな片田舎にプロ選手がいるなんて…」
「片田舎て…笑」


球団名すら薄ら覚えだった彼女は、選手寮と二軍本拠地がこの辺りなことももちろん知らないのかと納得する。


「実はこの辺なんですよ、選手寮」
「そうなんだ!?私ずっとこの辺りに住んでるけど知らなかった…なんか損してた気分になってきた」


壮真にそう言われ、彼女が肩を落とす。
さっきから明るくなったり暗くなったり忙しいヤツだなと思った。


その後、土手に腰掛け少し彼女と話すと、彼女、榛葉Aは都内の大学に通う大学四年生で、この辺りに住んでいるらしい。
就活が終わり、今はダンスサークルの活動と卒論に力を入れているとのこと。

彼女の話を聞きながら、大学に進んでいたら俺も今頃卒論に追われていたのかな、なんて想像した。
 
 
 
 
 

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作者名:星見杏世 | 作成日時:2023年10月8日 3時

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