虚無の愛【サーティーン】 (ページ5)

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5話ページ5

彼女が去った後も俺はこの場所にとどまっていた

彼女と会うこの場所は天界と俺が住む世界の境目だ

この場所だけが、彼女に会えて、彼女を見て喋る事ができる

…だが、どうしても彼女には触れる事は出来ない

何故なら境目には透明な壁がはられているからだ

まるでそれは俺にこちらに来るなと言うように頑丈に作られている

何度も壊そうとした
だが傷一つつかなかった

この壁さえ無ければ俺は…ッ

「13ッ！！」

そんな風に思っていると、突然俺の名前を呼ぶ声

…迎えが来たか…

ゆっくりと振り向くとそこには彼女と"瓜二つ"の人物

「またあの子に会ってたの…？」

そう言う目の前の人物は俺の仕事のパートナーで、そして俺の…偽の恋人

「わりーな、長々と話しちまってよぉ…寂しかったか？A」

そう名前を呼び、引き寄せギュと抱き締める

「…別に…」

そうは言いながらもAは俺の背中に腕を回す

「大丈夫だ、どこにもいかねぇーよ…だってお前の事…愛してるんだから」

そう言うとAはバッとこちらに顔を上げ、嬉しそうに、そして…切なそうに笑った

「…うん…私もだよ…」

その言葉に満足し、俺はAに顔を近付ける

そして目を瞑るA

俺はそんなAの姿をいつもの様に俺の想いの人…彼女と重ねる

愛している…だなんて嘘の言葉
彼女に言いたい事を俺は目の前のAに伝えているだけだ

もしAが彼女だったらどれだけ良いだろうか…

姿は彼女と瓜二つだと言うのに、中身は全く違う

Aが悪いと言いたいわけではない
むしろいい奴だと思っているし、なにより俺の大切なパートナーだ

仕事はしっかりするし、俺のことを誰よりも気にかけてくれる

本当にいい奴で優しい奴だと思う

だが、俺はAではなく彼女が好きなのだ

俺の想う彼女は遠い存在だが、その彼女に似ているAはいつでも側にいる事ができる

だからこのポッカリ空いた心を満たそう

Aを彼女と重ね、虚無の愛によって…