4話 ページ4
後ろから聞こえてくる怒号と銃声。
おぼつく足で雪を踏みしめて真っ白な世界を少女はただ走る。しかし、大人と子どもの足の速さには歴然たる差がある。距離は縮まる一方。
パシュン!と銃声が鳴る度に肩や脚、体のあちこちに弾が擦れて少女は血を落としていく。
「逃げんじゃねぇーよ!!!」
その言葉に怯む体に隙が生まれる。
二発の銃弾が少女の両片方の肩甲骨を貫いた。激痛に足を絡ませて仰向けにボフリと白い草原に倒れた。
ジワジワと背中から血が流れていく感覚。とても焼けるように熱い。
ザクッザクッと雪を踏みしめて近づいてくる男の足音に少女は「もう終わりだ」と察してハァと白い息を吐いて空を仰ぐ。
しんしんと降る雪が少女の瞼に触れては溶けて流れていく。まるで涙のように。
あまりの恐怖の極限に泣けなかった少女は、その頬に流れる感覚も冷たさも心地よくてゆるりと微笑んでは瞼を閉じて迫る死を待った。
もう、どうでもいい。パパとママに会えるのなら。
ザッと覆う影。
倒れる少女を見下ろすピエロは仮面の下からポタポタと血を流していた。そして、手にもつピストルをこちらに_________
「…ッ…」
向けることはなかった。
ただ息を呑み、あろうことか銃を落としてそっとピエロの仮面に手をかけて外した。
あらわになった端正な顔。口をわなわなとさせて頬を赤く染めていき呆然と少女を見下ろしたまま
「天使」とポツリと呟いた。
男の見開いた瞳には、少女の背中から流れた血が翼のように雪に模様を作り、慈悲深い笑みを浮かべ涙を流している姿。
それは、絵画に描かれた天使のような美しさ。
男は、この世で初めて神秘的だと思えるものに出会えた瞬間だった。
呆然と立ち尽くす男。対して少女はいつまで経っても来ない死に疑問に思い目を開けようとする。
が、徐々に遠のいていく意識。抗うようにぐっと無理やり瞼を上げて微かに開けた視界。
そこには、ボヤける景色の中でこちらに両手を伸ばす男の姿。
「救ってやる。今回だけは。次会った時は必ず……」
どんな顔をしているのかはっきり分からないまま少女は男の腕の中で意識を失った。
少女は、男の気まぐれで命を救われたのも同然だったのだ。次出会った時は________
「死」を意味するだろう。
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Omiso(プロフ) - 十六夜夏希さん» コメントありがとうございます!好きだと言っていただけてとても嬉しく思います!また、書き終わってしばらく経った今でもこうしてコメントを頂けること幸せです!本当に最後まで読んで頂きありがとうございました! (2022年4月30日 14時) (レス) @page38 id: 6bf568ad42 (このIDを非表示/違反報告)
十六夜夏希(プロフ) - マイキーが春千夜を見放す(?)のって珍しいですね!言葉では表せないくらい好きです。お疲れ様でした!! (2022年4月30日 13時) (レス) @page39 id: cc6ab814ba (このIDを非表示/違反報告)
Omiso(プロフ) - ゆゑるさん» コメントありがとうございます!わわっ!たくさん褒めていただいてとても嬉しいです😊何より貴方様を楽しませられたことが作者にとって一番の幸せです😭本当に最後まで読んでいただきありがとうございました! (2022年4月12日 8時) (レス) id: 6bf568ad42 (このIDを非表示/違反報告)
ゆゑる(プロフ) - うわぁぁぁ!!今読み終わったんですけど、最高ですっ...!作者様の表現の仕方からもう素敵でした😭めちゃくちゃ面白かったです!!!!! (2022年4月12日 1時) (レス) @page39 id: 1d05848943 (このIDを非表示/違反報告)
Omiso(プロフ) - yumuiさん» コメントありがとうございます!隠れ主人公!確かにそういった捉え方もありますね…貴方様の発想に驚かされました。作り手としてしっくりときたお言葉をいただいて嬉しく思います。最後まで読んでいただきありがとうございました! (2022年3月7日 16時) (レス) id: 6bf568ad42 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Omiso | 作成日時:2021年10月16日 17時