【WT】花天月地【Smile】 (ページ42)

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『・・・はい、終わり。』

傷口の消毒をし、カットバンを貼る。

「ごめんね、ここまでして貰っちゃって」

『私がやりたくてやってるからいいの。それより、焼きそば食べるんでしょ？ほら、行くよ』

「うん！」

化粧室から出て、焼きそばの屋台へ向かい列に並ぶ。

「ん〜美味しい〜」

『そうだね』

「あ、金魚すくいやろう！」

金魚すくい？
・・・懐かしいなぁ。

まだ小学校低学年辺りの歳、夏祭りに来て、金魚すくいをやった。

自分の番が回って来た時、隣には同じくらいの男の子もいた訳だが、その男の子は一匹も掬えなくて泣いていた。
私はその時、手元にはたくさんの金魚がいたし、こんなに居ても世話が大変だなぁと思い、男の子に何匹かおすそ分けした。

「ありがとう！おなまえ、きかせて？」

『わたしはね、つるにちA！』

「ぼくは、なかむらあおい！よろしくね！」

その出来事の後、二度と彼とは会うとは思っていなかった。
でも、高校が一緒という事に今になって気づいた。
なんで清掃区域同じだった時に気づかなかったのだろうか。
でも、この夏祭りで起きた出来事だからこそ、夏祭りで思い出せたんだなぁ。

そんな風に感傷に浸っていると、凛の順番が終わり、私に回ってくる。

「ねぇ智樹！俺めちゃくちゃ掬ってやるからな！お前の記録抜かすし！」

「やってみろよ」

何やら隣の人が、友人と思わしき人と話していた。

「蒼金魚すくい下手くそでしょ？俺に勝てると思うなよ〜」

・・・蒼？
もしかして・・・！！

「ん？あ、Aじゃん。なんか、懐かしいね。俺、あの時めっちゃ泣いてた記憶あるんだよねw」

『覚えてるんだ』

「逆にAは覚えてない？」

『覚えてるに決まってるでしょ。まさかさ、こんな場面で出会って二度と会う事ないだろうなって思ってたんだけど、高校同じだったとは思わなくてさ』

あの時と同じシチュエーション。
でも、私も蒼も高校に上がっても、あの時と変わらずに楽しんでいた。

「俺さ、友達と競走してるんだけど、あとでちょっと分けて？」

『んふふ〜良いよ』

なんか、本当にあの時に戻ったかの様だった。
彼の隣で金魚すくいをしているのも、彼に金魚をおすそ分けするのも。
屋台だって何一つ変わらず、少し古びた雰囲気のままだった。