検索窓
今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:4,159 hit

誰かの父で在れたなら ページ11

診療所のベッドで、あと少しで退院出来るはずのくろちゃんの啜り泣く声を聞いた。
この世の闇を一手でぎゅっと握り締めたような、苦しげな嗚咽。私は、何をしてあげられるだろうか。
夜勤でリラックスするために入れていたカモミールティを飲ませようか。確かに香り高いが、恐らくはくろちゃんの舌には合いづらいだろう。
ちょっとした冷蔵庫に入れられた牛乳を見つけ、私は機械のヒーターで少しづつ温めていく。
誰かの置き忘れだったらしい、角砂糖を拝借して私はホットミルクを作った。
「くろちゃん、眠れないかい?」
「おじさま…?」
「牛乳を温めておいたから、飲むといい。砂糖を入れて置いたから、飲んだら少しうがいをしてね」
電気のランタンで、私は彼女の手元を照らしてみる。
光に照らされて見えたのは、彼女の涙が乾く前の、悲しげな顔だった。
「おじさまはどうしてそんな私のことを甲斐甲斐しく世話までしてるわけ?」
辛さを窺わせないようにする、彼女なりの配慮なのか。くろちゃんは「裏」の口調で私に語る。
「…そうだね…ひとつは、私が本来なら父となっていてもおかしくない歳だからだね。少年隊は、大体の子が親に見放されたりする……何故か、父性本能が働いてしまうんだ」
本当に、私くらいの歳の男は大体がもう人の子の父になっているのだ。子がいないのは私くらいか。
「でも、私も『医師』であり同じ無能力者だ。誰かの心が少しでも軽くなってくれるなら、私は皆を我が子のように扱うつもりさ」
ちょっとだけ微笑んでみせる。くろちゃんがムッとしないように、控えめにだったけれど。
「おじさまの言い分は理解してたつもりだよ…でも、私はおじさまが思う以上に」
「私が想像するよりもきっと深い傷を背負っているのは、重々承知さ」
だからこそ、なんだよ。
私には、その傷の深さを完全に知ることは出来ない。それでも私は、「父」としてくろちゃんを救いたい。
私が皆の父の代わりとなることで少しでもいいから笑っていてくれるならば、私は磔にされたって構わない。
ランタンで照らされる私は、どんな顔をしているだろう。憂いを帯びていたのだろうか。
「ほんとおじさまはお節介が過ぎるね。いつかロリコンショタコンなんて言われて捕まっても知らないよ?」
ホットミルクで少しはリラックスしてきたらしい。くろちゃんが、口角を上げながら冗談を言うものなので、私はまた彼女を撫でてしまった。
誰かの救いとなれたなら、私はそれだけでいいのだ。

幸運を運びし子→←汝の隣人を愛せよ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 6.4/10 (15 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
2人がお気に入り
設定タグ:神樹を守る子ら , 派生作品 , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

アトランティス(プロフ) - 初めまして、見させて頂いてます。ジャレットおじさま...?(混乱中)うちの子が出るなら甘い物を貰いに来そうだな...()更新楽しみに待ってます! (2019年7月28日 23時) (レス) id: a0fd450377 (このIDを非表示/違反報告)
螺旋状 - 十六夜月姫さん» 更新頑張って下さい!こちらもおじさまを借りるときがいつか来るので、そのときもよろしくお願いします!(予告) (2019年7月28日 19時) (レス) id: f31ca4f391 (このIDを非表示/違反報告)
十六夜月姫(プロフ) - 螺旋状さん» こちらこそありがとうございます…!おっさんはこれからもこうして悩みながらの生活をしますがよろしくお願いします…! (2019年7月26日 20時) (レス) id: 876f512bd1 (このIDを非表示/違反報告)
螺旋状 - え、あ、え、うちの貴智くんが...?(混乱)お借りしたのを確認しました!おじさまカッコいいです(・−・ )。続きを楽しみにしています!使っていただきありがとうございました(*´▽`*) (2019年7月26日 19時) (レス) id: f31ca4f391 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:十六夜月姫 | 作成日時:2019年7月19日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。