そして、彼女は泣いた1 ページ47
．
「……寒い」
住宅街にある公園のベンチに座りながら、風宮は空気に晒して赤くなっている手を、コートの袖を伸ばして隠す。首回りと袖口に茶色のファーがついた白のコートを羽織り、結っていた髪は今日は下ろしていた。
公園には滑り台にブランコに砂場がある。雪が降った後で、所々雪かきされて小さな山が出来ている。
何となく空を見上げると、曇りかかった天気だった。
ぐずついて今にも雪が降ってきそう。
「……感傷的になるなんて」
私らしくない と言いかけて、思った。
そもそも自分らしいとは何か。……分からない、日向と別れてしまったあの時から、少しずつ歯車が噛み合わなくなってしまっている。
空を眺めていると、突然視界が暗くなった。
カーキ色のコートと、炎のように揺らめく白い髪。端整な顔には朧気な微笑を浮かべている。狛枝だった。
「やあ」
咄嗟に考えを巡らせた。力が弱くなったせいで、幸運が発揮されてしまったのだろうか。だとしたら本当にくだらない。
風宮は瞬きして体勢を整える。
「……よく懲りずにやって来るね」
「うん、ボクは風宮さんの希望を愛しているからね！」
そう言いながら普通に隣に座る狛枝を見て、蹴飛ばそうかと頭に浮かんだが、よく見てみると鼻が赤い。
手には擦り傷があり、コートもスボンも濡れている部分がある。
「……もしかして転んだ？」
「いやあ、路面が凍ってるのに気づかなくて顔からいっちゃって。あはは！無様だよね！」
地味に痛い不運だ。
しかし怪我が殆ど見当たらなく、顔から突っ込んだのに鼻血すら出ていないのは幸運だからだろうか。
「と、そんな話より、こんな所で何してたの？」
「別に、一人でボーッとしてただけ」
「そうなの？ 落ち込んでるように見えたから声をかけたんだけど……」
「……私が？」
狛枝は頷く。
「こんなウジ虫が心配するなんて図々しいかもしれないけどさ……風宮さんのそんな悲しい顔、見たくないな」
いつの間にか笑顔が消えていた。まっすぐと、何を考えているか全く読めない。
普段の優しげな微笑には胡散臭さがあって、偽っている狛枝を観察してきた風宮でも、こんな虚無の顔は見たことはなかった。
視線から逸らして、風宮は袖口に隠していた自分の手を外に出して、絡ませる。
「………これは一人言。だから、受け流して」
狛枝は何も言わず視線で肯定した。
風宮が息を吐くと、白い息が生まれる。
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初火(プロフ) - ゆきさん» 今まで才能に振り回されていたのが無くなったことで、自分なら、自分の方がその男より大切にすることも愛すことも出来る、と考えて、あんな風になりました。 (2016年10月17日 19時) (
レス) id: 4a3cd1d519 (このIDを非表示/違反報告)
初火(プロフ) - ゆきさん» はい、狛枝からですね。狛枝にとって、絶対的な希望の才能を持っている彼女を悲しませる相手が許せなかったんです。絶望的な状況を希望に変えてしまうのが奇跡……と考えている彼は、彼女と一緒にいる間不運が来ないことで、欲が湧いたんですね。 (2016年10月17日 19時) (レス) id: 4a3cd1d519 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 狛枝とキスしたんですか？ (2016年10月17日 17時) (レス) id: ab6fb12fda (このIDを非表示/違反報告)
初火(プロフ) - M2さん» コメントありがとうございます！嬉しすぎて、更新張り切っちゃいそうです！ (2016年10月12日 17時) (レス) id: 4a3cd1d519 (このIDを非表示/違反報告)
M2 - とてもおもしろいです！いつも更新、楽しみにしてます！ (2016年10月12日 15時) (レス) id: 2e35ec2a38 (このIDを非表示/違反報告)
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