もう引き戻れない ページ33
．
「……っ」
身を強ばらせる風宮の肩を左手で撫でながら、もう片方の手で胸ポケットから黒い輪っかを取り出す。晒された首に パチン と小さな音を発て装着させた。
振り返ろうとすると、男は後ろから抱き止める。
「念のために保険をかけさせてもらうよ。逃げられないようにGPSは勿論……」
首輪に触れる風宮に、男は ふふっ とほくそ笑む。
「無理に外そうとしたら、即効性ある睡眠薬が注入されるから気をつけて」
「……人を動物のように扱って満足？」
「いや、私は一人の女性として扱いたいなぁ」
遠回しの告白に風宮は冷めた声で答える。
「気持ち悪い」
「ははっ。……兎に角、施術の時に来てくれれば良いだけだから」
耳許に囁かれる男の声に ゾクッ と寒気した。
．
地下にある研究所には何ヵ所か隠し通路があり、その一つである図書室の奥の資料室から出てきた風宮は、研究員に付けられた首輪を、マフラーの上から触れる。
まるで飼い慣らされた犬になった気分だった。それに、首に付けられた物を生徒に見られるわけにもいかない。
とりあえず埃っぽい部屋から出て、図書室に移動することにした。
近くの椅子を引いて、席につく。
日向は今どうしているのか。気になってあの男に聞いたが、答えてくれなかった。
完全に治ったわけではない後遺症の頭痛が ズキズキ と風宮を襲う。最後に日向と会った時、激しく体を動かしたせいで負担が掛かったようだ。
こめかみを押さえながら、呟いた。
「――……誰かにとっての希望は、誰かにとっての絶望になる」
どこまでも空っぽに聞こえるそれを合図に、風宮は目を閉じる。
カムクラプロジェクトが決まったあの日、解散して黄桜と二人きりで夜の廊下を歩いていた時を思い出す。
『こんなことに巻き込んでしまって、本当にすまない』
『……そうですね。貴方にスカウトされなければ、少しだけ未来が変わっていたかもしれない』
黙りこむ黄桜に『でも』と付け加え、淡々と話す。
『貴方は言った。希望ヶ峰学園に入学したら、私のくだらない才能を克服出来るかもしれないって』
『……そうだね。表向きには読書家として過ごし、莉愛ちゃんの才能を調べる手筈だった。けど、評議員の奴らに目をつけられて』
帽子の鍔を傾ける仕草をする黄桜に、風宮は自分の髪を触りながら口を開いた
『……もしそれが運命なら、私は死ぬまでこの才能に振り回されて、受け入れるしかない』
そこで風宮の意識が途切れた。
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初火(プロフ) - ゆきさん» 今まで才能に振り回されていたのが無くなったことで、自分なら、自分の方がその男より大切にすることも愛すことも出来る、と考えて、あんな風になりました。 (2016年10月17日 19時) (
レス) id: 4a3cd1d519 (このIDを非表示/違反報告)
初火(プロフ) - ゆきさん» はい、狛枝からですね。狛枝にとって、絶対的な希望の才能を持っている彼女を悲しませる相手が許せなかったんです。絶望的な状況を希望に変えてしまうのが奇跡……と考えている彼は、彼女と一緒にいる間不運が来ないことで、欲が湧いたんですね。 (2016年10月17日 19時) (レス) id: 4a3cd1d519 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 狛枝とキスしたんですか？ (2016年10月17日 17時) (レス) id: ab6fb12fda (このIDを非表示/違反報告)
初火(プロフ) - M2さん» コメントありがとうございます！嬉しすぎて、更新張り切っちゃいそうです！ (2016年10月12日 17時) (レス) id: 4a3cd1d519 (このIDを非表示/違反報告)
M2 - とてもおもしろいです！いつも更新、楽しみにしてます！ (2016年10月12日 15時) (レス) id: 2e35ec2a38 (このIDを非表示/違反報告)
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