その手を掴んでいたら2 ページ25
．
「……先、ご飯食べてきたら」
小泉に一言言うと、ばつが悪そうに「ごめんね」と、ウェーブの女の手を引いて教室を後にした。
それが気に入らなかったのか、彼女は盛大に舌打ちする。
「……人を蹴落とすくらいなら、もう少し自分と向き合ったら？見えるものも見えなくなるよ」
その時、胸ぐらを掴まれ、顔を引き寄せられた。
「知った気でいんじゃねーよ！その澄ました顔が腹立つんだよクソ女！」
言い放つと、思いっきり突き飛ばされた。
風宮の目が見開く。声なんて出なかった。
日向の悲鳴が鮮明に聞こえるのに、このままだと危ないと解っているのに、体は鉛のように重くて動かない。
近くにあった机を手で引き摺りながら、頭から床に強く打ち付けた。
強い衝撃が全身に襲う。視界が飴細工のように歪んでいき、全身の力が抜けていく。
そのまま瞼を落とし、風宮の意識は暗転した。
「風宮……！！」
日向は突き飛ばした本人である九頭龍を押し退け、急いで傍に寄った。クラスが、廊下の野次馬達が騒然する中、膝をついて容態を確かめようとするも、それを見て、体の熱が一気に奪われた。
頭部から出血をしていたのだ。
真っ白な床が、艶やかな髪が、赤に塗り替えられていく。呼び掛けても ピクリ とも反応がない。
その現実を目の当たりして、日向の焦りが募る。
……あの時、自分が手を掴んでいれば。
そんな思いが掻き立てられるが、後の祭りだった。
「ぷっ。だっさー！受け身くらいとりなよー！」
九頭龍の笑い声は反省もしていなければ、罪悪感の欠片もなかった。
じわり と胸に怒りを込み上げるのを覚えながら、振り向く。
「……こんなことしてただで済むのか」
その声は自分でも恐ろしいくらい低かった。
「は？何、脅してんの」
「違う！これじゃお前、予備学科から追い出されるぞ！？」
「うるさい！そいつが死ねば、私が本科に入れるかもしれないでしょ！……私は絶対に本科に行くんだ！」
言い捨てると、九頭龍は逃げるように去っていく。
野次馬がどんどん増えてくるのを目の当たりにして、日向は苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てた。
「……っふざけんなよ」
そんな理由で命を奪われてたまるか。
日向はゆっくりと風宮の体を起こし、抱き抱える。
落とさないように立ち上がると、急いで教室を後にする。ひたすら走った。
……どうか、助かりますようにと、強く肩を抱き締めながら。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 80人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ダンガンロンパ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
初火(プロフ) - ゆきさん» 今まで才能に振り回されていたのが無くなったことで、自分なら、自分の方がその男より大切にすることも愛すことも出来る、と考えて、あんな風になりました。 (2016年10月17日 19時) (
レス) id: 4a3cd1d519 (このIDを非表示/違反報告)
初火(プロフ) - ゆきさん» はい、狛枝からですね。狛枝にとって、絶対的な希望の才能を持っている彼女を悲しませる相手が許せなかったんです。絶望的な状況を希望に変えてしまうのが奇跡……と考えている彼は、彼女と一緒にいる間不運が来ないことで、欲が湧いたんですね。 (2016年10月17日 19時) (レス) id: 4a3cd1d519 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 狛枝とキスしたんですか？ (2016年10月17日 17時) (レス) id: ab6fb12fda (このIDを非表示/違反報告)
初火(プロフ) - M2さん» コメントありがとうございます！嬉しすぎて、更新張り切っちゃいそうです！ (2016年10月12日 17時) (レス) id: 4a3cd1d519 (このIDを非表示/違反報告)
M2 - とてもおもしろいです！いつも更新、楽しみにしてます！ (2016年10月12日 15時) (レス) id: 2e35ec2a38 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
