【Q】恋アイ【all】

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　望んでいない気がする。だから俺はあまり彼女に近づかず、興味関心を向けないようにしている。それは、苦手というたった二文字に省略されたくない、ぼんやりとはしているけど確かに心からの思いだった。



「……やだなぁ、ほんと」



　こういうことは昔からあった。だけどまともに取り合ってくれる人間は少なく、自分が少数派だと知ってからは、余程の事がない限り口にしたことがない密かな悩み。
　勿論その悩みの種に助けられたことはあるので、一概に俺の人生から完全に排除したい、というわけではないのだが。


　……俺は、昔から人の感情に敏感だった。人の感情に敏感と言っても、河村とはまた少し違う。
　彼の場合は他人が他人に向けている感情に敏感だが、俺の場合は、【人が心で舌打ちをするタイミングが分かる】だとか【この人は俺を嫌っている】だとか、そんな、【被害妄想】の一言で片付けられてしまいそうな、自分に対して向けられている感情に敏感だった。

　だから分かるのだ。Aさんと対話をする時、「あぁこの人は俺にこれ以上近づいてほしくないんだ」などといった感情が。恐らくそれに気づいているのは、今のところ俺だけだろう。



「えっ！良いじゃん行きましょうよ！」

「行かねぇよ馬鹿！俺はすき家行くんだい！」

「ね、ね、ほら、一回だけ！一回だけだから！」

「あんな小洒落た店は俺の肌に合わねーの！てかあちぃんだよ馬鹿離れろ！」



　はぁ、と溜め息を吐いた俺の耳に、オフィスの程よい緊張感をぶち壊す元気な声が二つ聞こえてくる。どうやら志賀くんとよく行動を共にしている女性社員からこうちゃんが辛辣な扱いを受けているようだ。そういえばあそこの二人、少し前に付き合い始めたとかなんとか言っていたような。


　彼の腕の中でもがく女性の名前を思い出そうと、天井に視線を移す。そしてすぐに彼女の顔と名前が一致した。いや、この場合【彼】の方が良いか。

　彼はまだQuizKnockがあまり大きくない時代に、伊沢が連れてきた人物だった。トランスジェンダーだと説明を受けたときは正しい対応の仕方が分からなくて困惑したものだが、そんなに気にしなくて良いとのことだったので、女性扱いはしないという条件以外は特に普通に接している。








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