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【Episode: 3_貴方が哀しくなる前に】 ページ16











そのまま、絶対に振り返らないで









【Fkr Side】



 ―――俺はどこまでも中途半端だった。友人としても、仲間としても……一人の、人間としても。



「じゃあ今度の企画は……Aさんに頼もうかな」

「了解しました!最っ高の企画を準備してきますよ!」



 一年程の前。試しにどう?と軽いノリの山本の勧めにより、本当にお試し感覚で提出したという企画の完成度がCEO自らに買われ、一般ライターから俺と河村のアシスタント的な立場に昇格した彼女―――AAの威勢の良い返事が、正午を過ぎた会議室に響き渡った。

 ハキハキと喋り、誰とでもフレンドリーに接することが出来る彼女は所謂、人に可愛がられるタイプの人だった。今だって最年長の須貝さんに「よっ、頑張れよ編集部最年少!」と頭を撫でられているし、彼女を見つめる視線は皆、暖かく優しいものだった。



「……」



 恐らくは俺だけがこの場で唯一、なんの感情も孕んでいない視線を彼女に向けていることだろう。周りが楽しそうに今度の企画について話している中、俺は一人手元の資料を机でトントンと整えて、一足先に解散となり和やかなムードに切り替わった会議室から退散する。



「まだ苦手なんすか、Aさんのこと」



 耳に残る、パチン、と資料をホッチキスで止める音。その音と同時に発せられた声に顔を上げれば、机に頬杖をついた山上がじっと此方を見つめていて、興味が無いことを伝えるように俺は手元に視線を戻して「別に」と淡白な返事をした。

 雑にメモ書きがされた資料を手に、動きを止める。俺は彼女が、苦手、なのだろうか。そんなたった二文字で表せるほど、この感情は単純なものではない気がする。



「……ただ」



 なんと、表現すれば良いのか……なんとなく、近づけない。須貝さんや伊沢達のように、なにも考えずに彼女のパーソナルスペースに入ることが、出来ない。



「なんかさ、」



 ―――なんとなく、望んでない気が、するんだよね。


 言葉足らずな俺の発言に山上は眉を潜めて質問を重ねようとしていたが、出端を挫くように伊沢の山上を呼ぶ声が飛んできて、彼は渋々と言った様子で「はぁい」と自分のデスクから腰を上げる。ゆったりとした歩みで去っていく彼の背中を少しの間見つめて、もう一度、先程自分が溢した発言について考えを巡らせた。







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白菜(プロフ) - 名無しさん» まであります。好きってだけではどうしようもないもどかしさや、好きだからこそ想いに蓋をする切なさのようなものを描けていたら良いなと思います。名無しさんを喜ばせることが出来て本当に良かったです!長文大好き人間なので、どうか気にせず是非また送ってください! (2020年11月12日 22時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - 名無しさん» コメントありがとうございます!図々しいと思い、結局説明文には書かなかったのですが、今回のお話は私の中での理解を深める意味と、もっと多くの人の恋愛の価値観を広げたいと思って執筆しました。誰かにこうして届けることが出来ただけで、私としては全てやりきった感 (2020年11月12日 22時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - りんごあめさん» お褒め頂きありがとうございます!デリケートなジャンルの更にデリケートな部分を攻めたお話なので私自身もビクビクしながら上げる決意をしましたが、そう言っていただけて良かったです!ゆっくりにはなりますが更新頑張ります! (2020年11月12日 22時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 長々と乱文を失礼致しました。もしここまで読んでくださったのなら、本当にありがとうございます。あなたの文章が、世界が、大好きです。白菜さんの今と未来に、幸せがあり続けますように。 (2020年11月11日 20時) (レス) id: 4c7b111d07 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - それから、お分かりだとは思うのですが、これはあくまで1ファンの、マイノリティとして生を受けた者の1人の感想であり、当然LGBTs全員の総意ではありません。ただ私が嬉しかったってだけの話なんです。 (2020年11月11日 20時) (レス) id: 4c7b111d07 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白菜 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年10月31日 8時

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