【文豪ストレイドッグス】空白にもなり得ない世界の話。 (ページ31)

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空白が三十。ページ31

「あの人は鋭いから多分バレてる。マフィアも黙って抜けてきちゃったし...」

彼は少し考え込むようにして手を顎に当てた。

「でもまあ、あの人は合理主義者だって聞くし、利益が無い内は殺されないだろ。

それに、目的を果たしたらお前は死んでもいいんだろ」

さも当たり前のように云う彼に反論しようとして、留まった。

抑も反論できる節はないし、彼の態度に自然に云い返そうとしてしまっただけだった。

自分の中で思っては来なかったけれど、彼の云う通りだったのだ。

「...そうだね」

「感謝しろよ？お前を此処に送ったこと」

「うん、してるよ。だから時計も上げたでしょ。珈琲飲む？」

彼がおう、と短く返事した。

彼の第一印象は、矢鱈腕に腕時計をつけていることだった。

後から聞けば、『時間』そのものが好きなのだと云う。

だから自分の異能力も愛している、と熱烈に云っていたのを今も鮮明に覚えている。

立ち上がり、カップを用意して簡単に粉を入れる。お湯を入れてから、また粉を入れた。

「二度手間じゃねえ？」

「これが美味しくなるの」

はい、と熱いのを我慢して手持ち部分を彼に向けてカップを渡すと、お礼を云って受け取り、すぐに口に流し込んだ。