検索窓
今日:6 hit、昨日:7 hit、合計:33,825 hit

太宰治誕生日番外編(肆) ページ19

「誕生日、おめでとうございます」


「忘れてると、思ってたよ」


「サプライズですよ!それと、之もあったから」




そう云って懐から取り出したのは、手のひらサイズの箱だった。一瞬指輪も考えたが、そんな訳あるかと自分で自分の考えに突っ込んだ。

Aはそれを手渡して、




「開けてみて下さい」




と笑った。云われた通り蓋を開けると、

裏に名前が入った腕時計が入っていた。




「腕時計…」


「太宰さんは、」




Aが静かに口を開いた。その様子は何処か哀しげだった。




「頭が良いから、直ぐに一人で何処か遠い所へ行っちゃうんです」


「それは探偵社の為だってこと、判っては、いるんですけど」




俯いて笑う。儚げで、少し触れただけで壊れてしまいそうだった。




「人とは違うからこその孤独。私には判ってあげられない。だからせめて、」




「同じ時を、歩みたい」




微笑んで、Aは云った。太宰は暫くそれを眺めて固まっていた。


Aがそんな太宰の様子を見て焦る。




「あ、御免なさい、気に入りませんでしたか?名前入りの特注品だから時間掛かっちゃって、探偵社でのお祝いにも行けなくて」


「それに、調べたら女性から男性へって束縛の意味もあるから迷ったんですけど、私にはこれしか…」




云っている内にAの顔から笑顔が消えていく。

街灯の下だからよく顔が判る。太宰はそんなAに、思い切り抱きついた。




「ぅわ!?」


「…有難う、嬉しいよ。真逆自分が生まれた日を祝ってくれる日が来るなんて、思ってもみなかった」




それだけで今迄の弁解の言葉が全部どうでも良くなった。

気に入らなかった訳じゃなくて、嬉しくて固まっていたのだとしたら。




「生まれてきてくれて、有難う御座います」




Aも、抱きしめ返す。

次の日から、太宰は腕時計を毎日してきてくれていた。




どうか、貴方にとって、生まれて来て善かったって思える一年になりますように。

あわよくば、その理由に私も入っていたら。




太宰の腕の時計がきらりと光った。




______________




太宰さんHappybirthday!!

Addict(壱)→←太宰治誕生日番外編(参)



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (53 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
120人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:みるくてぃー | 作成日時:2019年6月16日 10時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。