太宰治誕生日番外編(肆) ページ19
「誕生日、おめでとうございます」
「忘れてると、思ってたよ」
「サプライズですよ!それと、之もあったから」
そう云って懐から取り出したのは、手のひらサイズの箱だった。一瞬指輪も考えたが、そんな訳あるかと自分で自分の考えに突っ込んだ。
Aはそれを手渡して、
「開けてみて下さい」
と笑った。云われた通り蓋を開けると、
裏に名前が入った腕時計が入っていた。
「腕時計…」
「太宰さんは、」
Aが静かに口を開いた。その様子は何処か哀しげだった。
「頭が良いから、直ぐに一人で何処か遠い所へ行っちゃうんです」
「それは探偵社の為だってこと、判っては、いるんですけど」
俯いて笑う。儚げで、少し触れただけで壊れてしまいそうだった。
「人とは違うからこその孤独。私には判ってあげられない。だからせめて、」
「同じ時を、歩みたい」
微笑んで、Aは云った。太宰は暫くそれを眺めて固まっていた。
Aがそんな太宰の様子を見て焦る。
「あ、御免なさい、気に入りませんでしたか?名前入りの特注品だから時間掛かっちゃって、探偵社でのお祝いにも行けなくて」
「それに、調べたら女性から男性へって束縛の意味もあるから迷ったんですけど、私にはこれしか…」
云っている内にAの顔から笑顔が消えていく。
街灯の下だからよく顔が判る。太宰はそんなAに、思い切り抱きついた。
「ぅわ!?」
「…有難う、嬉しいよ。真逆自分が生まれた日を祝ってくれる日が来るなんて、思ってもみなかった」
それだけで今迄の弁解の言葉が全部どうでも良くなった。
気に入らなかった訳じゃなくて、嬉しくて固まっていたのだとしたら。
「生まれてきてくれて、有難う御座います」
Aも、抱きしめ返す。
次の日から、太宰は腕時計を毎日してきてくれていた。
どうか、貴方にとって、生まれて来て善かったって思える一年になりますように。
あわよくば、その理由に私も入っていたら。
太宰の腕の時計がきらりと光った。
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太宰さんHappybirthday!!
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作者名:みるくてぃー | 作成日時:2019年6月16日 10時