本丸、再び。 その3 ページ8
見つめ合うことたっぷり3分。じりじり近寄ってみても小夜ちゃんが後ずさらなくなったことを確認してから、立ち上がり一気に距離を詰める。
｢私の事、わかる？｣
しゃがみこんで問いかける。少し躊躇い気味に彼は小さく頷いた。
｢……あなたの声が、何度か聞こえたことがあったから｣
……肝が冷えた心地がする。
まじ？私の奇声の数々がこの子達に聞かれてたの？可愛いとかっこいいと好きしか言えなくなる時があるんだけど聞かれてたの？穴があったら入りたいんだけどまじで？
ふと気付くと小夜ちゃんが不思議そうな目で私を見ている。いけない、この話を深追いするのはやめよう。こほんとひとつ咳払いをして、当たり障りない話題を探す。
｢えっと、小夜ちゃん、ここはなんの部屋？｣
｢手入れの補助室だよ｣
なんの捻りもない質問にもちゃんと答えてくれるからいい子だなあこの子は、と混乱した頭で思う。
小夜ちゃんは更に、手入れ部屋は私が最初に目覚めた部屋であること、あちらの部屋の刀掛けに刀を掛けてからこちらの部屋で眠ることによって刀身、肉体が共に回復すること、怪我の程度によって睡眠時間は変わること、手伝い札を枕元に置いて寝るとどんな怪我でも数分で直ることなんかも教えてくれた。
うんうんと相槌を打ちながら、不意にさっきの出陣のことを思い出す。
(そういえば小夜ちゃん、重傷になってたんじゃ)
ゲーム内の表示を信じるならば、江戸城下で負った彼の傷はまだ治っていないだろう。急にすっと背筋が寒くなる。
｢ああ、そうか。だから休んでたのか｣
そりゃ手入れ部屋にいる理由なんて怪我をしたからに決まってる。最初は知らなかったとはいえ、何も考えずはしゃいでいた自分の無神経さにだんだん腹が立つような情けないような気持ちになった。
｢ごめん、いつも痛い思いさせて｣
不思議そうに小夜ちゃんが私を見るので余計に居た堪れない。
｢いや、君たちの本質を否定したいわけじゃないの。君たちは武器だし、戦して無傷なんてありえないし｣
ああ、訳わかんなくなってきた！
でも彼はしどろもどろな私の言葉を無言で聞いてくれるから、優しいなぁとまた思う。それに甘えて一時悩んで、それからまた言葉を次ぐ。
｢……でも、やっぱり私、小夜ちゃんが傷付くのは嫌だなぁ｣
随分と自分勝手な願いだな、と胸中で苦笑した。支離滅裂にも程がある。
小夜ちゃんはしばらく目を瞬かせてから、いいんだ、と首を横に振った。
｢……僕は、やっぱり、復讐の刀でしかないから｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 122人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ミミミ(プロフ) - こだぬきさん» ありがとうございます！こだぬきさんの元にもこだぬきさんの刀剣男士たちが訪れますよう願っております、私もいつか彼らとお話してみたいです(*´`)ゆっくり更新ですがゆるりとお待ち頂けると嬉しく思います。 (2019年5月2日 22時) (
レス) id: 8134640c57 (このIDを非表示/違反報告)
こだぬき(プロフ) - はじめまして！お話読ませて頂きました！私も実際に夢でもいいから自分の刀剣達に会いたいです…(*´ω｀*)これからも応援させて頂きます！また遊びに来させて頂きます！ (2019年5月1日 16時) (レス) id: 680cc78f50 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ミミミ | 作成日時：2018年12月2日 16時
