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放課後を迎えた。
Aは即座に帰ろうと思ったが、不意にある事を思い出す。
『これ、返すんだった…。』
清掃でも保健室に立ち寄る必要が無かったので、忘れてしまっていたが、夏油へ借り物を返していなかったのだ。
バッグを開けた際に、奥にある保冷剤を見て漸く思い出したと言った処。
「A、部活行ってくるね!…あと、昼の事は気にしなくていいよ。」
『うん、ありがとね、部活頑張って。』
「じゃ、また明日ねー。」
『また明日ね。』
そんなAに気付かず、友人は昼の事を励ますと部活動に行ってしまった。
そんな友人へ手を振って見送ると、Aは机に手を就いて腰を上げた。
『…大丈夫、すぐ返して、家に帰るだけ。』
自分自身に言い聞かせる様に呟くと、Aはバッグを肩に掛けて教室を出た。
長い渡廊下を歩いて保健室へ向かうが、その途中は落ち着かず、心拍数は上がる一方だった。
その理由は、昼に友人から言われた衝撃の一言。
夏油に運ばれた、と言う事実。
早退をする際にはそんな事は一言も言われなかった。
寧ろ言わないでくれたのかもしれないが、却って逆効果だ。
Aは溜め息を吐きながら歩いていると、あっという間に目的地に到着してしまった。
『…、ッ…はぁ…。』
保健室の白い扉がやけに大きく、威圧的に見える。
謎の緊張感がAの中ではあったが、意を決して扉を静かに叩いた。
そして、すぐにその返事は来る。
「どうぞ。」
『…。』
銀色の取っ手に手を掛けて、ゆっくり横に滑らせる。
内心嫌で堪らなかったが、Aは夏油と目を合わせない様に気を付けて保健室に足を踏み入れた。
『…失礼します。』
「…おや、どうかしたのかい?」
『…保冷剤、お返しに…。』
Aの視線は完全に床へ落ちていた。
Aの声に気付いた夏油は、机で作業をしていた手を止めると、Aの方へ身体を向けた。
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みゅん(プロフ) - 焦げた春巻きさん» 焦げた春巻き様コメントありがとうございます!そんな風に思っていただけるのは嬉しい限りです!応援ありがとうございます! (2022年3月19日 6時) (レス) id: a9a2211c25 (このIDを非表示/違反報告)
みゅん(プロフ) - おもち。さん» おもち。様コメントありがとうございます!そう言って頂けるのはやっぱり嬉しいです!ありがとうございます! (2022年3月19日 6時) (レス) id: a9a2211c25 (このIDを非表示/違反報告)
みゅん(プロフ) - ???*??さん» ???*??様コメントありがとうございます!現在は作品整理をしている最中ですので申請をお受けするのが難しい状況にございます。折角のお話でしたのに申し訳ありません。ただ、特別公開をする事がございますので、その際にでも読んで頂けましたら幸いです。 (2022年3月19日 5時) (レス) id: a9a2211c25 (このIDを非表示/違反報告)
みゅん(プロフ) - ほーんりさん» ほーんり様コメントありがとうございます!お心遣いに感謝いたします!ありがとうございます! (2022年3月19日 5時) (レス) id: a9a2211c25 (このIDを非表示/違反報告)
焦げた春巻き(プロフ) - うああ夢主が救われない…心痛むけど展開が気になる作品です!これからも応援しています。 (2022年2月23日 15時) (レス) @page20 id: f0574d2f45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みゅん | 作成日時:2021年11月4日 2時