〃 ページ7
｢嫌、逆だな。お前ほど美味そうな女は初めてだ｣
ふ、と今度は不敵に笑い、私の涙を拭ってくれる。
ピッ、と一筋、頬が爪で傷つき、血が流れる。
｢おっと、失礼｣
ぐあっ、と目前までグルッペンの顔が近づき、流れた血を舐めとる。
思わず目を見開いていると、しっかりと尖った犬歯が視界に写りゾクゾクする。
｢涙は止まったようだな、A｣
｢は、ぇ｣
｢まさか、俺もこんな辺鄙な村で出逢えるとは思っていなかった。存在すらも疑っていたしな。｣
────｢なぁ？狂人さん？｣
狂人
きょうじん
狂った、人
そっか。そうなんだ。
私、狂ってたんだ。
いつから？
グルッペンさんと、出逢ったときから？
ううん、もっと、きっと、ずっと前から
納得と同時に、酷く安堵する。
｢私、狂人なんだ｣
｢なんだ、気づいてなかったのか｣
｢そう、なんですかね｣
｢あぁ、そうだ｣
｢私……｣
｢ん？｣
｢私、グルッペンさんの為に、なにか、したいです｣
今度目を見開いたのはグルッペンさんの方だった。
｢グルさんでいいゾ。そうだな……自分で、俺に得であろうことを考えてみろ｣
｢自分で……｣
その夜。私は父を殺した。
父の猟銃では音が目立ちすぎるので、庭の薪割り用の鉈を使った。
父は、鉈を持った私を撃ち殺そうとしたが、引き金を引けなかったのだ。
お父さん。羨ましいな。貴方が。
だって、あの人の血肉になれる。
だって、あの人の中で、共に生きることが出来る。
羨ましい。
父を食べやすいように細かく切った。
グルさんはそれを見て笑いながら、私の頬に飛んだ血を拭おうとして手を止める。
｢……？グルさん？｣
｢嫌、俺の爪ではまた傷つけてしまうからな｣
なんだ。そんなことか。気にする事はないのに。
｢別に、グルさんになら傷つけられてもいいのに｣
零れた本心は、夜の闇に浮かんで消えた。
父は、グルさんが一晩で平らげてしまった。
その日から、毎晩私は村の人を1人ずつ襲った。
グルさんが疑われることは無い。
なぜなら、死んだ人達が殺されるとき、グルさんは別の村人と共にいるからだ。
私のような、唯一の肉親を亡くした少女が1人になろうとすることを不審に思う村人は居ない。
隣の家のおばさん。
友達。
村の占い師。
誰も、私が狂人だなんて気づかなかった。
みんな、グルさんの血肉になった。
あぁ、みんな、幸せだろうな。
そして、夜が来る。
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まつりか(プロフ) - めっちゃ好きです…獣人zmさんの話と昇降口のshaさんの話が特に好きです!!言葉選びのセンスと知識に圧倒されるみたいな気分で読んでました…無理のない範囲で更新があることを心待ちにしてます! (2021年9月19日 17時) (
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