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ルシファーはゆらりと立ち上がり、
Aの方へと距離をつめる。

兄の顔を正面から見た途端、
恐怖で思わず目を逸らした。

しまった。怒らせた。

体が小刻みに震えるのを感じる。
禍々しい気に押され
床を見るだけで精一杯だ。

離れようとしても
Aにはもともと
後ろに一歩、二歩くらいの逃げ場しかない。

それを見透かした上で、
ルシファーはゆっくりと歩みを進める。

「その大切な妹がコソコソと
兄に隠し事を持つようになったら?」

ん?と肩をすくめ眉を下げる。

「僕の献身的な心を踏みにじるような素振りを見せ始めたらどうするべきだと思う?」

捕食対象を隅においやった猫さながら、
にやにやと嫌な笑顔を浮かべ
Aの横に手をつき言葉を続ける。

「もちろん、原因を排除する。
シンプルなことだろう。そもそも天使がお気に入りの人間を持つことなんて許されないはずだ。
アメナディエルみたいに堕天する前に救ってあげたんだから感謝してほしいね」

吸い寄せられるようにルシファーは
Aの首筋へと口付けた。

「兄上、彼はただ、」

声は十分に怯えているが、
まだAがピーターを庇おうとしたことが
火に油を注ぐこととなる。

「…口答えか?お前が?この僕に?」

低く唸るような声色に変わったことは
Aのピンチを明確に表していた。

顎を掴み、無理矢理顔をあげさせる。

兄の性格を知っていたはずなのに…
こんな話持ち出すんじゃなかった。
そう思って後悔しても後の祭りだ。

「っ…!」

兄の真っ赤な目に捉えられた
自分が情けなく
小さく写っているのが見えた。



.

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作者名:若松 | 作成日時:2021年9月28日 14時

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