LUCIFER(短編集) (ページ9)

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「どうして兄上に一回も話したことのない
ピーターが面識があるはずもない兄上に
怯えているのか説明してくれますか」

事の発端はこうだ。
本屋で働いているピーターに
おすすめの本を聞いたことをきっかけに
歳の差もなかった2人はすぐ仲良くなり
近々新しくできたカフェに行こうという
テキストのやりとりをしていたのだが
約束日前日になって突然キャンセルされ
さらにもう今後一生会わないという旨の
テキストを受け取り何事かと電話で
問い詰めれば
どうやらルシファーが関わっている事が
判明した。

絵に描いたような好青年のピーターを
ここまで怯えさせた兄に心底怒りが湧いた。

妥当な理由があろうとも
許せる気はしなかったが、
理由だけ問いただしておきたかった。

だがルシファーから返ってきた答えは
想像してもみないものだった。

「いいかい、ここでの問題はね、A。
僕に隠れてコソコソと
秘密の友達を持つようになったことだ」

ルシファーは１つ大きくため息をつき、
わざとらしく頭に手をやり
悲しむ素振りを見せる。

秘密の友達というが、
そんなたいそうなものでもない。

事件やパーティーに忙しい兄に
話すタイミングがなかっただけだ。

それにルシファーお得意の責任転嫁に
仰天するほど短い付き合いではない。

元々ああ言えばこう言う兄だと
承知してはいたが
こうも自己愛が強いと呆れざるを得ない。

「はっきりさせておくけど、
僕の役目は妹をあらゆる危険から守り、
永遠に側を離れず愛を捧げ続ける事。
人間たちが使うくだらない比喩なんかじゃなく、文字通り、永遠に」

ルシファーはソファーの端に座って
顔を正面に向けている、
つまりAからは横顔しか見えないのだが
ルシファーの瞳に孕まれだした
怪しい鈍い光だけはしっかりと見てとれた。

少しずつ空気が重くなっていく。

「お互い嘘をつかず、秘密も持たない。
そういう関係性を保ってきたし、
これからもそうあるべきだ。
妹を守るためなら身を挺して
地獄の業火に焼かれよう。
…だがその肝心の妹が！」

まずい、とAは直感で思った。
少しずつ荒々しくなる兄の息に
緊張の糸が張り詰めていくのを感じる。

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