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「今度はお前の翼を折って…いや、僕みたいに切り落とそうか。そうしてどこにも行けないようにしてしまうかもしれないよ」

言い終わって耳朶を甘噛みし、
ふふと喉奥で笑う。

切り落とされると、
もう生えてこないかもしれない。
ぞわりと、わきたつ鳥肌が抑えられない。

兄ならやりかねないと知っている。
いや、必要とあらば彼は確実に実行する。

大昔に一度実際に折られたことを思い出し、
恐怖が再び体を支配した。
あの時怒りに支配されたルシファーを
アメナディエルが止めてくれなかったら
確実に死んでいただろう。

「あ、にうえ」

涙いっぱいの目に映る自分の兄は
にこりと爽やかに微笑んでいる。

「充実した話ができてよかった。
さ、朝ごはんにしようか」

Aとは対照的にルシファーは
軽やかな足取りでAの手を引き
ソファーに座らせる。

「ああ、折角の紅茶が
冷めてしまったようだ
温めなおしてくるから先に食べ始めてて」

「…はい」

食欲なんてあるはずもないが、
反抗する気持ちもさらさらなかった

「いい子だね、A。愛してる」

この言葉はまるで呪いだ。
文字通り永遠に続く呪い。
自分もまた父の理不尽なゲームに
巻き込まれた犠牲者にすぎなかった。

離れたくとも離れられない。

そもそもAは他の兄弟たちとは異なり
地上で人間に紛れて魔物から人間を守るために
創られた天使。

魔物や悪魔などといった邪悪な存在が
人間界に入ってきたときは対象物を
ぴたりと見張り人間に危害を加える前に
地獄へ送り返す。

邪悪な存在の力が強力なほどAを
マグネットのように強く引きつける。

この場合は、ルシファーだ。

組み込まれたDNAが作用し、
兄のもとを離れられない。

しかもややこしいことにルシファーは
堕天前から異常な執着と歪んだ愛情を
Aに抱いており、
何千年経った今でも全く薄れていないようだ。

寧ろ増しているように感じる。

ありとあらゆる責務を放棄出来るのなら
もういっそ還ってしまいたいと
心の隅で思った途端
その心情を反射するようにばさりと
大きなクリーム色の翼が出現する。

見られてはまずい。

焦りと恐怖で勢いよく後ろを振り返る。
が、まだルシファーは
戻ってきてはいないようで
ひとまず安堵した。

間もなく奥の部屋から
兄の足音が近づいてくるのが聞こえ、
Aは急いで翼をしまい
いまだに震える体を抱きしめながら、
届かない祈りを父に捧げた。





.

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作者名:若松 | 作成日時:2021年9月28日 14時

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