これが恋だなんて信じないⅡ (ページ19)

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駅までの道でページ19

「あ、もう結構遅いね」

「帰ろっか」という宏規くんの声に頷く。10月ということもあり、夕方には群青色の空が見え隠れするような時期だ。18時を超えると真っ暗である。

店の外に出ると、少し冷たい風が肌を撫でた。もう秋だな。

「なんか色々あって疲れたけど、楽しかったなぁ」

そうポツリと呟くと、「俺も」という声が斜め上から返ってきた。相手の方を見なくても会話ができるぐらいにはなれたの……かな。

そういえば真剣乱舞祭に行くことを言ってない。別に言ったところでって感じだけど、一応ね。

「「あのさ、」」

「あっ、ごめん、先いいよ」

「いや、ええよ。……って、前もこんなことあったやん」

そういえばあった。いつか忘れたけど……よく覚えてるなぁ

お言葉に甘え、「真剣乱舞祭あるじゃん？」と内容の始めを口にすると、宏規くんはそうそう、と言った感じで「俺も真剣乱舞祭来てくれるんか聞こう思ってた」と口を挟んだ。

「まじか。行く行く。友達と行くから今日チケット発券してきたんだけど…ちょうど客降りするかなっていう感じの通路の真ん前だから、もしかしたら～って感じです」

「あ～なるほどね？もしかしたら？」

「うん、もしかしたら」

その後駅が近づいてくるにつれ、カップルが多くなってきたことに気が付いた。高校生らしき制服を来たカップルが広場のベンチに座って喋ってて、初々しさを感じる。

「私にはああいう時期はなかったなあ」

「そんなしみじみと。女子校やったっけ」

「そうそう。おかげで女子らしさとか恋愛という名の青春は無くなったけど、部活とか友達とか、そういう青春はできたかな」

「ええと思うよ、そういうの」

いいと思うと言われるのは素直に嬉しい。何気ない言葉でも、宏規くんはお世辞とか、嘘をついていないなって思えるから、話していて安心する。

宏規くんは少しそのカップルを見つめていた。何を思ってるのかは、少し高いところにある横顔からは伺えない。彼は唐突にこちらに顔を向けると、とんでもないことを聞いてきた。

「Aちゃんさ、今って付き合ってる人おるの？」

「えっ?!いないよ！いたこともない」

「そっか～」

いや「そっか～」ってなに？と思いつつ、「じゃあ宏規くんに彼女はいるの？」と聞こうと口を開きかけた。

でも、それはどうしても喉の奥につかえたように、口をついて出てこなかった。