157 ページ14
·
吹雪くんは、病院のベッドで静かに眠っている。大事に至らなかったことが唯一の救いとも言えるけれど、見守る私達の空気は、酷く重い。
栗松くんを初めとした、ディフェンスのメンバーが、止められなかった自分達のせいだと後悔している。そんな中、意を決したように、春奈ちゃんが口を開く。吹雪くんは、ボールを取りに行っただけなのか、と。その先を話すのは躊躇っているのか、円堂くんに促されて、少しずつ想いを話し始めた。けれど、なにひとつ頭に入ってこない。
私だけが、違和感を覚えていた訳ではなかった。皆が気付く程だったのに、あくまでも仮説だと、吹雪くんが何も無いと言うからと、深追いをすることはしなかった。もっと、早く行動に移していたら。でも、私が何かをして、変わるような問題なのだろうか。
「監督は、何か知ってるんじゃないですか」
「何か知ってるんですか。監督」
「……吹雪くんには、弟がいたの」
少し強く問いかける円堂くんの言葉に、我に返る。
弟が、いた。監督の声が遠く聞こえるけれど、なんとか耳を傾ける。
吹雪くんと一緒にサッカーをしていた、弟のアツヤくん。兄がボールを奪って、弟がシュートを決める、完璧なディフェンスとフォワードのコンビ。
けれど、ある日の事故に巻き込まれて、吹雪くんは家族を亡くしてしまう。それ以来、「吹雪士郎」の中に「吹雪アツヤ」の人格が生まれてしまった。2つの人格を使い分けることは、簡単ではない。エイリア学園との戦いを続けていく中で、心のバランスが崩れてしまったのかもしれない、と。
「崩れてしまった……だったら、どうして吹雪くんをチームに入れたんですか？監督は知ってたんですよね？今日みたいなことが起こるかもしれないってこと、分かってたはずじゃないですか！」
「なのに、どうして吹雪くんを！エイリア学園に、勝つためですか。エイリア学園に勝てれば、吹雪くんがどうなってもいいんですか！？」
一之瀬くんが、秋ちゃんを宥める声が聞こえて、そっと服の裾を掴む。引かれた感覚があったのか、私を見る秋ちゃんは、もう一度一之瀬くんを見て、ぐっと押し黙ってしまう。
今は、今だけは。何かに縋っていないと、すべての感情が溢れ出してしまいそう。
「それが、私の使命です」
そう言って、監督は病室を出ていってしまった。
私達と、ここに来た時よりも、暗く重たい空気を残して。
·
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 230人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
セロハン - 表現などにすごく引き込まれました！ここら辺は見ていてとても悲しくなるので手が止まりそうになります。大変だと思いますが作者様のペースで更新頑張ってください！応援してます‼︎ (12月27日 21時) (
レス) @page17 id: 0fe5dcb2f7 (このIDを非表示/違反報告)
アイセ(プロフ) - 今日見つけ夜中だというのに楽しくて一気に読んでしまいました！この作品の更新を勝手ながら待たせていただきます…！アレスやオリオンという新作ではなく無印の夢小説を求めてた民としてはすっごく嬉しかったんです！続きを心待ちにしております！ (11月9日 4時) (レス) @page17 id: 6d7754e057 (このIDを非表示/違反報告)
女アスパラ - 主さん大丈夫ですか？私はこの作品が大好きです主さんのお話を読むことが何よりの幸せです‼主さんさんが投稿してくれてたら飛んで見に行きます‼この作品が大好きです更新ずっと待ってます (10月22日 19時) (レス) id: 31d4d35068 (このIDを非表示/違反報告)
ぱくちー(プロフ) - この作品がすごく好きで、何度も読ませていただきました。自分のペースでの更新で、無理なさらないでください！ (10月11日 1時) (レス) @page17 id: 57a1c57efc (このIDを非表示/違反報告)
雨宮(プロフ) - 150話おめでとうございます！相変わらずの更新速度ですねありがとうございます！ (9月30日 17時) (レス) @page7 id: ff30a51e0f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：M | 作成日時：2023年9月29日 14時
