弱々しい声 ページ12
△
放課後。
「ねぇ、頬の傷どうしたの？」
僕は帰る用意をしている偽さんを呼び止めた。
『ん？ 何が？』
偽さんは、あえてとぼけたように見えた。
「何がじゃなくてどうしたの？」
『うーんと。……こけた。』
偽さんは右手で毛先をくるくるしながら言った。
「前もそんな理由で怪我してなかった？」
『私、ドジだから……。へへへ。』
ヘラヘラと笑う偽さんは痛々しく見えた。
『じゃあ、またね。デクくん。』
偽さんは早めに話を切り上げて帰ろうとした。
僕はそんな偽さんの腕をとっさに掴んだ。
『別に関係ないじゃん。離してよ。』
「関係なくない。心配なんだよ。」
僕は偽さんの腕を握る力をほんの少し強めた。
『いったっ。』
偽さんは顔をしかめた。
僕は迷う事なく偽さんの袖を捲り上げた。
そこには青黒くなった痣が散りばめられていた。
僕はこの痣を見て息が止まった。
一瞬動けなかった。
「……これはどうしたの？」
僕がそう聞くと、偽さんは下を向いて黙り込んだ。
少しの沈黙を挟んで、偽さんは口を開いた。
『本当に大した事無いから大丈夫だよ。』
偽さんは困ったように笑った。
僕は偽さんの顔を見て、何か隠してるんじゃないかと思った。
「全然大丈夫って顔してないよ。何かあったんじゃ____。」
『お願いだから離してよっ‼』
偽さんの叫び声に近い声で、クラスの大半の人が振り返った。
僕はびっくりして、掴んでいた偽さんの腕を離した。
数秒間、動けなかった。
『ごめん。でも、放っておいて欲しいの……。』
そう呟いて、偽さんは教室を出て行った。
僕は静かに教室を出て行く偽さんの小さな背中を見つめていた。
偽さんの最後に放った弱々しい声が、耳に残って離れなかった。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 185人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆのん(プロフ) - 感動しました。私自身、前の父親にそれに近い事をされていたので、自分の話のように感情輸入出来ました。 (3月13日 17時) (
レス) @page45 id: 9b31ba286d (このIDを非表示/違反報告)
脅威のセラフ - とても素敵な作品をありがとうございました。私は病気を患っているので勇気が出ました！ (2020年7月12日 19時) (レス) id: 285d3eca52 (このIDを非表示/違反報告)
美琴(プロフ) - お話がとても深くて素晴らしかったです！ (2020年5月10日 16時) (レス) id: 8087b8e5a0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：はるちこ | 作成日時：2019年9月23日 0時
