9.躊躇少女。 ページ10
「美女ちゃん、どうしてあんな所にいたの?」
もう薄暗くなってしまった帰り道を、2人仲良く並びながら歩く。
彼は本当はもっと早く歩きたいだろうに、私の短い足に合わせてゆっくり歩いてくれる。
「……と、閉じ込められた」
「それって、いじめ……じゃないの?」
緒方くんが、気を使いながら私に尋ねてくる。
でも生憎、彼の想像するような、女子同士の醜い争いとかでは、無い。
むしろ私自身よく分からぬままに事が進んだというか……。
「違う、と思う……だって、知らない人だったし……」
「どんな人?女子、男子?」
「男子……ちょっと偉そうな、感じの」
「そっか……」
顔に似合わない気難しい雰囲気を出しながら、彼は懸命に何かを考えていた。
馬鹿だな、と思う。
好きでもない、可愛くもない、関わって得をする相手じゃないのに、どうしてそこまで必死になっているんだろう、この人は?
内申点のため?
だとしたら、彼が私を閉じ込めた『牛島司』を捕まえて成敗させたところで、私は絶対に彼に感謝しない。
彼の内申点稼ぎのために、私の被害を利用させてたまるか。
「や、やっぱり嫌……?」
「当たり前、考え方が最低すぎ」
ぼそっと彼のつぶやきに答えると、心の中で、(お前もだけどな!)と毒づく。
「……その人の名前、知ってる?」
「聞いたけど忘れた」
「んー、じゃあ、雰囲気」
「それはさっき言った」
彼とやり取りをしていると、心が落ち着かない。ザワザワするし、正直ちょっとイライラする。
いつもはあまり動かさない足を、一生懸命動かして、彼から遠ざかろうとする。
「あっ待って、美女ちゃん!」
けれど、現役運動部の足には適わなかった。
「な、何するの」
彼は私の正面に回り込むと、両手で私の肩をがっしりと掴んだ。
そして、暗闇でもわかる程に、真っ直ぐにこちらを見つめる。
「心配なんだよ、美女ちゃんは女子だし……今だって、俺がいなきゃこんな夜道暗くて危ない、それに……」
ああ嫌だ。
その偽善くさいところとか、善人ぶってるその態度とか、全部全部全部……。
「うるさい、その名前で呼ぶな!私なんかが誰かに襲われるわけないじゃん馬鹿じゃないの!?もう、関わってこないでよ……!」
感情が昂って、涙がひとりでに溢れる。
突然のことに呆然と立ち尽くす彼の腕を勢いよく振り払うと、そのまま家まで走ろうと、強く目を閉じた。だから私は、すっかり忘れていた。今日の私の運勢が、最悪な事を。
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作者名:いろはす | 作成日時:2018年4月28日 15時