8.落胆少女。 ページ9
｢……君、こんな時間に、こんな所で、何してるの？｣
そこに居たのは、肩からテニスラケットと思われる物を提げている男子生徒だった。
｢えっ………と、｣
｢木村美女さん、だよね？紙飛行機飛ばしたのって。これ｣
彼が私に見せてきたのは確かに私が古びたチラシで作った紙飛行機だった。
SOSのメッセージも、書かれてある。
｢助けに、来てくれたの？｣
恐る恐る口を開くと、彼は少し困った表情をして、ふにゃ、と笑った。
｢うーん、そうなるの、かな？｣
色素の薄い髪の毛が、ふわふわと風に揺れている。ふいに撫でたい、と思った。
｢あ、あっ、あり、がと……う？｣
必死に紡いだ私の言葉はひどくガタガタで穴があったら入りたいくらいだった。
でも、穴なんてないし仕方ないし今はまずここを出なければ。
彼の電灯の光を頼りにゆっくりと足を進める。
すると突然、目の前が眩しくなった。
彼と私は同じ方向を向いているから、彼の電灯が直接私に向かうことは無い。
なのに、目がチカチカとして、奥に不思議な影が見えたり……確かに、光で痛んでいる。
｢えっ、な、何？｣
｢コラコラ君たち、こんな時間まで何やってるの！とっくに最終下校時間過ぎてるよー！｣
それは、見回りの警備員のおじさんの声だった。
｢やべっ｣
彼が小さく声を漏らす。
｢君、名前は。クラスと学年も｣
おじさんは私たち二人を見比べると、クシャッとした紙とインクの出が悪そうなボールペンをノックすると、私たちに名を名乗ることを促した。
｢1年C組、木村美女です……｣
｢同じく1年C組、緒方匠です｣
言われてから気づく、彼、同じクラス？
その事に驚きを隠せず、警備員のおじさんの『全く今どきの若い子は……』だとか、『後で担任の先生にも言っておくからな』だとか、『そもそもどうしてこんな所に……』だとかいう説教じみたことは右耳から入ったのか左耳から入ったのか分からぬままに、どこかへ抜けて飛んでいってしまった。
その後、そのおじさんはひたすら愚痴をこぼした後に、私たちを解放すると、校門まで送り届けた。
｢ふー、ようやく解放された〜。美女ちゃん、帰る？｣
｢カッ、帰る……けど｣
｢そか、方向、どっち？｣
｢あ、あっち｣
私が右手で行き先を示すと、彼はニッコリと笑って『俺もこっちなんだ！』と言ってのけた。嘘だな。
｢緒方くん、嘘、下手くそだね｣
｢え、何？｣
私の呟きは、闇に溶けて消えてしまったみたいだ。
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作者名：いろはす | 作成日時：2018年4月28日 15時
