4.断念少女。 ページ5
────体育倉庫へ閉じ込められて、1時間と30分。
私は、ケータイの画面とにらめっこをしている。
表示されている『母』の文字。
熱を持たないその文字に、私は助けを求めるべきか否かで悩んでいる。
「大事に、したくないし……」
私は電話帳を閉じると、そのまま顔を埋める。
もうどうしようもない、風呂に入れないしご飯も、食べられない。
家に帰ることも多分無理だ。
お母さんに言ったところでどうにもならない。
説教が続くだけ。
明日は学校をサボろう。
もうここで寝てしまおう、誰も来ない。
明日になってもここを抜け出せるか自信はないけど、最悪マットの近くに篭って隠れていればバレることはないだろう。
さあもう悩むのはやめだ、寝よう。
だが、目を瞑ってみたところで、私の脳内にはあいつの声がこだましている。
『逃げるのか?』
『変わってみたくはないか?』
ガバ、と顔を上げて、目の前の壁を睨みつける。
あれは、一体どういう意味?
私のイメチェンを成功させるってこと?
いや、絶対無理でしょ……。
私みたいな女が、根暗で陰キャでブスでダサくてちょっとぽっちゃりな私が、イメチェンなんて無理に決まってる。
大体、『美しい女』と書いて『みお』って読むなんて、名前負けにも程がある。
私の両親はなんでこんな名前を私につけたの?
おじいちゃんもおばあちゃんも、なんで反対してくれなかったの?
そもそも、なんであの時私は財布を取りに行こうと思ったんだろう。
どうせ数少ないお小遣いを盗まれてることくらい分かっていたじゃない。
なんで、無駄に動こうと思ったの数時間前の私。
ほんと、バカ、バカ、バカ。
馬鹿ばっかり。
負の連鎖から抜け出せずに、何度目かもう分からない大きなため息をついた時、再び牛島司の声が、聞こえた気がした。
「逃げるのか?」
と。
さっきと同じ、何も変わらないトーンで。
でもさっきより、強く、背中を押すような。
「……どうせダメなら、やれる事、試しておこうかな」
私は立ち上がると、スカートの裾についていた埃を手で払った。
パチン、とつけた蛍光灯のあかりが、何だかいつもよりキラキラと輝いて見えた。
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作者名:いろはす | 作成日時:2018年4月28日 15時