3.放置少女。 ページ4
｢……｣
牛島司、と名乗る男子生徒はそのまま私の方に向かって歩いてくる。
｢はっ、えっちょ……えっ？えっ？！｣
知らず知らずのうちに後ずさってしまうし、動揺と緊張で転んでしまい、尻もちをつきながらも、彼から逃げる。
｢やっ、ちょっと本当に……や、やめ、｣
ドン、と壁にぶつかり、限界を感じてきつく目を閉じる。
叩かれるか、乱暴をされるか……。
でも、いつまで経っても何もされない。
恐る恐る目を開けると、彼はまじまじとこちらを見ているだけだった。
視線は、些か厳しいものであったけれど。
｢な、んです、か……？｣
サラサラとはしてない私の、女子にしては手入れのなってない髪の毛を、指先でつまんでいる。
｢……手入れがなってないな｣
まるでゴミを扱うかのように、髪から指を離すと、今度は私の頬の肌をそっと撫でた。
｢……ガサガサでオイリー、できものが多い。スキンケアはしているのか？｣
その心を見透かすような目の前で、嘘はつけなかった。静かに首を横に振る。
｢だろうな……唇の手入れはしているか？｣
ガサガサの血が滲む唇をぴっ、と人差し指で擦る。痛みが走る。またしても私は、首を横に振った。
彼は眉間に深く皺を寄せると、ゴシゴシと指をハンカチで拭った。(しかも強く！！)
まるで汚いものを扱ったかのように。
｢なんで、すか……何か、態度、失礼じゃないですか？｣
必死に振り絞った私の問いかけに、牛島司はこう返した。
｢お前、変わってみたくはないか？｣
｢は、はい？あのー、人の話聞いてます？｣
｢このボサボサの髪も、ツヤツヤになるぞ。唇も綺麗になるし、肌もきめ細かになる。そうすれば、美女という名前にも恥じぬ人間になるぞ？｣
｢……だから！さっきから、あなた失礼すぎません！？｣
｢事実だろう、変わってみないか？変えて見せようか？｣
彼の目にゾッとした。
本気だ、こいつ。
急いで逃げようと走り出すと、ガシッと腕を掴まれた。
｢はっ、え？！｣
そのまま、また引きずられるようにして、倉庫へ近づく。
｢ちょっと！？何するの、やめて！！！！｣
彼は私を体育倉庫へ突き飛ばすと、鍵をかけた。
……鍵をかけた？
かちゃん、と音がして、それきりドアはびくともしない。
｢えっやだ、ちょっと！？ねえ、や、やだ……｣
ドアの外からあいつの声がする。
牛島司の声が。
私は、呆然とその場に立ち尽くすしかできなかった。
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作者名：いろはす | 作成日時：2018年4月28日 15時
