好きです。 ページ16
影山
『…ッ?!』
左手に触れた瞬間、ほんの少しだけ肩を揺らし泣きそうな顔を見せる奥村サン。
踏み込んじゃいけない。
頭では何となく。ホントに何となく分かった。
誰にでもある入ってきて欲しくない禁域。
孤独で真っ暗で苦しくて堪らないトコロ。
影山「左手。痛いですか?床に着いてたの左手ですよね?その時に捻ったとか…」
でも。本能は触れろと言っている。
今触れなきゃ、そのまま彼女を手放すことになりそうで。
彼女の心に。
必死に取り繕う笑顔と苦しそうな表情の裏に。
触れたい。知りたい。
ゆっくりと左手を包み込むと段々と奥村サンの表情は歪んでく。
彼女の瞳は拒絶の色をしてた。
A『いやっ…!!』
スっと身体の熱が失われていく。
頭っから氷水を掛けられたような、今にも割れそうな風船のような気持ちが身体を駆け巡る。
スルリと包み込んだ筈の奥村サンの小さな手が溢れ落ちるのと同時に俺を捉えてるふたつの目から大粒の涙が零れ落ちる。
A『…ぁ、ちっ、違くてっ!違うの…ゴメンなさ、い…』
その姿が“水瀬 ”と重なった。
バレーが好きかと聞いた時に見せた涙。
手を伸ばせば届くのに手を伸ばせなかった後悔。
影山「俺は。俺はちゃんとここにいます…ボケェ…」
何してんだよ俺。
無意識のうちにそっと手を伸ばし、頬を伝う涙を拭う。
気付いた時には変な事を言ってる自分に腹が立つ。
A『…影山…。私は水瀬じゃないよ。
“水瀬A ”じゃない。』
心の底では分かってた。見て見ぬふりをしてた。
俺は勝手に奥村サンに水瀬を重ねてた。
好きの基準とか範囲とかなんてわかんねぇ。
好きなもんは好きなんだし
好きになったら好きなんだと思う。
奥村サンとは出会ってまだほんの少ししか経ってない。
知ってることはまだ少なくて。
苦手なことも好きなことも。
得意なことも好きなモノも。
趣味も誕生日でさえも知らないけど。
影山「俺。奥村サンの事が好きです。」
今伝えなきゃ後悔する気がした。
失ってからじゃ遅い。
そんなことは、人一倍知ってる。
ただ繋ぎとめたかった。小さな独占欲。
影山「貴方が好きです。」
もう一度。確かめるように。
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作者名:ツナ缶本仕込み | 作者ホームページ:http://@ya love
作成日時:2021年10月1日 20時