邪な要求(2) ページ6
*
「はあ?俺はお前を殺しにきたんじゃねぇ。他人を巻き込むんじゃねーよ」
「どうしてですか?あなた達にとって人を斬ることなんて容易いことでしょう」
ーー我ながらなんて人情の無い言葉だろうか。
そんなことを思っていると、彼はギロリとこちらを睨み返し、己の刀を鞘から取り出し私に突き出してくる。
「何の罪もねぇ人間を斬るのは、俺の武道に背く。だったら自分で首を刎ねろ。一瞬であの世行きだ」
溺死より楽に死ねるだろう。
そんな怖い言葉をつらつらと目の前の男は語る。
鋭利に燦めくその刃。
彼から受け取ってみると、見た目よりもズッシリと重量を感じた。
「てめぇがどんな人生を歩んできたかなんて俺には知ったこっちゃねぇがな」
お巡りさんは煙草を吹かし、夜空に昇っていく煙を見上げる。
「ーー生きたくても、死んでいく奴だっていんだ。それでも死にたいってんなら、勝手にやれ」
儚く消えていく煙と淡い光が放つ星空を見つめながら、彼はこう言った。
嗚呼ーーきっとこの人は、わかっていたんだ。
私に死ぬ覚悟さえ持ち合わせていないこと。
失礼な発言、まして殺してくださいだなんて卑怯なことをお願いしている私に、生命の重みを教えてくれる。
ここまで私のことを思い、言ってくれる人がいただろうか。
こんな温かみのある言葉をーーかけてくれる人が今までにいただろうか。
「ごめんなさい…っ」
溢れる涙。
言葉が詰まり、思わずその男の胸の中に縋る。
突然の暴挙に彼は慌てて離れるよう忠告してきたけれど、それでも私はずっと縋って大声で泣いた。
飢えていた愛情や温もり、様々な感情が溢れていたからーー。
「ーーお侍さんの覚悟も、彼を通してよくわかったの」
私のちょっぴり苦くて懐かしい思い出話。
それからトシはよく、私を見かけたら声をかけてくれる。
年齢も近いことから私が勝手に彼の呼び名で呼んでもトシは何も言わなかった。
鬼の副長だと耳にするその肩書きもーー真選組を抱えているその立場からのものだということも私は知っている。
「世話焼きですごく優しくて私の命の恩人なの。だから彼の仕事の邪魔はしたくないし、陰ながら側で見守っていたいの」
209人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ミウラ(プロフ) - 今までにない感じのお話で、話の進め方とかお話の書き方とかすごく好きです!これからもずっと応援してます (2021年2月1日 21時) (レス) id: d74a655a97 (このIDを非表示/違反報告)
宇治(プロフ) - あくび少女さん» 初めまして、宇治です。コメントありがとうございます。ドロっとしてますか?沖田の腹黒健在とのことで、原作の世界観を壊してませんでしょうか…!カッコいいとのお言葉いただけて嬉しいです。今後とも精進いたしますので、よろしくお願いします。 (2019年8月10日 1時) (レス) id: c046a70699 (このIDを非表示/違反報告)
あくび少女 - こういう少しドロッとしてる話、大好きです!しかも、沖田がゲスなのにかっこいい!更新頑張ってください (2019年8月9日 21時) (レス) id: 1b61770dea (このIDを非表示/違反報告)
宇治(プロフ) - 蝶遊さん» 初めまして、宇治と申します。お気遣いのお言葉、とても嬉しいです。ありがとうございます。総悟の言動を掴めていると思っても良いのでしょうか…!!この調子で執筆していければいいなと思っています。ありがとうございました! (2019年4月14日 16時) (レス) id: c046a70699 (このIDを非表示/違反報告)
蝶遊(プロフ) - コメント失礼します。沖田さんらしい言動や言葉遣いとても素敵です…!無理なさらなずに更新頑張ってください、応援してます! (2019年4月12日 19時) (レス) id: 845216b1cc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:宇治 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/uji/
作成日時:2019年2月2日 22時