初恋の幻影【現代篇】

儚い恋心（１） ページ9

ある日の昼下がり。

冷蔵庫から苺牛乳を取り出し、指定の席へと身を投げる。


定春の呑気なあくびに俺も釣られながら、天を仰いだ。


仕事の依頼はねぇし、新八と神楽は買い出しに出かけたし。
平和だなー。


そんなことを思いながら苺牛乳を口に含み、机上に無作法にも足を放り出す。
極め付けに鼻に小指を突っ込めば、大きな鼻くそとご対面。


すると、インターホンの音が鳴った。



あー出るのめんどくせェな。

だってさー、アイツらいねーじゃん？
俺今、苺牛乳飲んでるじゃん？
取れた鼻くそ、飛ばしてねーじゃん？

ほら！もうめんどくせーじゃん。
全てにおいてめんどくせーよ。
息するのもめんどくせーよ。

どうせババァか猫耳顔面凶器が集金にでも来てんだろ。無視だ無視。



決心を胸に、更に深く椅子に腰掛けて苺牛乳を変わらず飲み続ける。

すると二度目、三度目とインターホンの音が鳴り響いた。


…しつけぇな。


疎ましく思いながらも、居留守を決め込み目を閉じる。


ピンポーン…ピンポーン…

ピンポンピンポンピンポン


「うるせェェエエ！！！」




止まないインターホンに思わず痺れを切らし、引き戸を勢いよく開け放つ。

怒りを露わに相手の顔を拝んでみると、目の前にはキョトンとした顔でこちらを見据えるAの姿。



「こんにちは。いるのはわかってたわ」

「なんつー嫌がらせだよ！営業妨害じゃねーか！」

「どうせお客さんなんかいないでしょ」

「うるせぇ！つーかなんでここにいんだよ！」




訳を問いただすと、顔の目の前に出されたいつぞやの婚姻届。

一瞬たじろぐ俺にピラピラと紙を揺らして提示する。





「印鑑、押し忘れてますよ。未来の旦那さん」





笑顔を咲かせるAに溜息をこぼした。

そうか、婚姻届ってサインだけじゃダメなんだっけ。めんどくせーな。


無造作に頭を掻きながら、とりあえず上がれよと部屋に通した。

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